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格パラ  作者: 福島崇史
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再開されて早々、崇の額から紅い筋が伝う。

細い糸の様なそれは、じんわりと崇の集中力を削った。

「チッ」

舌打ちと共に指でそれを拭い、構え直した崇は上体を振りながら大作の動きを探っている。


大作は構えを変化させていた。

先までアップライトスタイルだったが、今は身を丸めてクラウチングスタイルで首を左右に振っている。

普通に考えればこれは、パンチ主体の戦法に移行した事を意味するのだが、そう見せかけるフェイクの可能性もある為に鵜呑みは出来ない。

とは言え、構えが変わった事で頭部は打撃を当てやすい高さへとその位置を変え、まるで美女が「ねぇ、、来て、、」と誘惑しているかの様に崇には映る。


それでも打ち込みたくなる衝動を抑えるのは、カウンターが怖いからである。

額の皮膚というのは想像以上に薄い。

少しの衝撃で傷口は容易く拡がってしまうだろう。

ただでさえドクターチェックを受けた事で印象は悪くなっている。

もし又チェックを受ける事になれば、試合を止められる事も覚悟せねばなるまい。


手を出せず、思考を巡らせる崇の視界下方で何かが動いた。

大作の足が軽く上へと上がったらしい。

構えを変え、パンチを意識させておいての蹴り、、、

(やっぱフェイクか、、、)

そう判断した崇は反射的に動いた。その蹴り足を捕らえようと手を下ろす。

必然的に頭部はがら空きとなり、自然と下方へと向かった。


(かかった!)

不敵に嗤った大作は、持ち上げたその足をそのままリングへと踏み下ろし、代わりに拳を振り上げた。

(!?しもたっ!これもフェイクかっ!)

危険を察した崇は踏み止まり、慌てて伸ばしかけた手で頭部を包み隠す。歯を喰い縛り衝撃に備える!

しかし、、、来るはずの衝撃は来なかった。

(??)

ガードの隙間から覗き見ると、狡猾な大作の笑顔が目に入った。


ゾワワ

悪寒に似た物が崇の背筋を走る。

その瞬間ガードしていた左の手首がグワシと掴まれた。

眼前の大作がフワリと宙に舞う!それと同時に凄まじい重力に引かれ、崇の身体はリングへと転がされていた。

更に驚いた事に、腕十字を極められそうになっているではないか。

(飛び付き腕十字)

サンボでそう呼ばれる技である。

相手の手を取り、そこに飛び付きながら腕を絡め取る事で、倒れた時には自然と腕十字を狙える体勢となる。


一時期ロシアのサンビスト達が柔道界に進出し席巻した事があったが、この技による所が大きかった。

柔道に無い動きに対応出来ない世界の強豪達は、成す術も無く蹂躙されたのだった。

今でこそ格闘家なら知らぬ者は居ない程ポピュラーとなったが、当時はまだまだ未知の技術だったサンボ。

その技に世界中が翻弄されたのだ。それ程に知らぬ技というのは容易く決まるのである。

しかし崇はサンビスト、、、いきなり出した所で決まるはずは無い。そう考えた大作は蹴りとパンチ、二重のフェイントを織り混ぜてこの技に繋いだのだ。


(コ、、コイツッ!俺にサンボ技やと!?)

腕を伸ばされぬ様に両手を固くフックさせ、奥歯をギシギシと軋ませる崇。

しかし大作は抵抗を嘲笑うかの様に崇の手首の関節をクイッと捻ると、その固く結ばれた鎖を容易く断ち切った。

人体の構造上、手首を強く内側へと曲げられると力は抜け、自然と拳は開いてしまう、、、

フックの外れたその腕はピンッと伸ばされ、交わる2人の身体がアシンメトリーの歪な十字架を描いた。


「あわわわっ!!」

焦りをそのまま吐き出しながら崇がロープを探す。

すると右手を伸ばせば直ぐ届く位置にそれはあった。

あったのだが、、、残り時間は僅かのはず。

耐え凌げばポイントをロストせずにラウンド終了のゴングに救われる、、、

そんな崇の計算を読んだのか、大作が左足の甲を崇の背下に差し込み、己の下腹部を上へと突き上げた。

こうする事で腕十字固めの効果は格段に跳ね上がる。

「ギャギャグゴワッ!」

たまらず言語では無い叫びを上げながら、崇が右手をロープへと伸ばす!

「エスケープッ!」

そのコールと重なるようにして、ラウンド終了のゴングが打ち鳴らされた。


現状説明

(持ちポイント)

崇・2ポイント

大作・3ポイント


(獲得ラウンド)

第1ラウンド・・ポイント差は無くドロー

第2ラウンド・・崇がポイントをロストした為、大作が獲得

第3ラウンド・・大作がポイントをロストした為、崇が獲得

第4ラウンド・・崇がポイントをロストした為、大作が獲得



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