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格パラ  作者: 福島崇史
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奏でる靭帯

虫を捕らえた子供というのは、無邪気に喜ぶ笑顔の裏で残忍な想いを抱いている物だ。

羽をもごうか、それとも足か、、、と。

この時の崇はまさにそれであった。

(腕を取るか、足を狙うか、、、よし、まずはっ!)

上から己の肘を大作の頬骨下にグリグリと押し付ける。

これは寝技の攻防に於いて、相手の動きを封じると同時に、気を逸らす常套手段であるが地味に痛い、、、


顔をしかめながら、その肘を手でずらそうと大作が動く。

しかしその時、崇が押し当てていた肘を自ら離した。

(!?)

理不尽に解放され頭に疑問符の浮いた大作。その彼を別の衝撃が襲う。

もの凄い力で突然胸を圧迫されたのだ。

「コォォッ!!」

肺の中身を全て吐き出させられたかの様に喉を鳴らす大作。

だが彼には崇が何を狙っているのか解っていた。

心臓マッサージの様に胸を圧する事で気を逸らし、押したその手を軸に鞍馬競技の如く身体を4分の1回転させる。

そしてガラ空きとなった腕を掴みながら倒れこみ、逆十字に極める。


柔道や柔術に於いて、逆十字を狙う時のセオリーと言える手法である。

それを読んだ大作が備えて防御態勢に入った。

自分の手首を掴み、腕を取らせないようにしている。

よしんば取られたとしても、この態勢ならば腕が伸びきる前に上体を起こす事が出来、極められるリスクを大幅に下げる事が出来る。


(かかるかよっ、甘いで福さんっ!)

ほくそ笑んだ大作だったが、崇は更にその裏をかいていた。

(あれ?)

来るはずの腕への攻撃が来ず、一瞬戸惑った大作。

しかしそれが罠である事を直ぐに理解すると、背筋を何かがチリチリと走り危険を告げる。

(ヤバッ!)

そう思った時にはもう遅く、右膝を跳ねる様に劇痛が駆け抜けた。


崇は肘を顔面に押し付ける事で気を逸らし、胸を圧迫する事でも気を逸らすという2段構えを実行した上で、敢えて基本的な技に移行すると見せ掛けたのだ。

策にはまり腕を警戒する大作を尻目に、崇は身体を半回転させ、まんまと大作の脚をその手に取っていた。

(膝十字固め)

基本的には肘関節への逆十字と同じ要領で膝関節を極めるのだが、崇のそれはそうでは無かった。


胸元へと抱え込んだ大作の足首、その踵を外側へと捻っているのだ。

いわば膝十字固めとヒールホールドの複合技である。

こうする事で十字靭帯と側副靭帯の両方にダメージを与える事が出来る。

実は膝関節を破壊する1番効率の良い方法は、膝その物を攻める事では無い。

足首、、、それも踵部分を内側、もしくは外側に捻るのが最も効果が高いのだ。

その為、崇の使ったヒールホールドは、的確に極まれば女性や子供の力ですら、成人男性の膝を容易く破壊出来る危険な技なのだ。

ましてや崇の使用した技は、そこに膝十字固めも加わっているのだ、その威力は想像に難くない。


ミチ、、ミチミチ、、、ギシ、、、

手羽先やフライドチキンを食べる時、関節部を捻ると聞こえるあの音、、、それが大作の膝内部で響いた。

「&#¥+$~~っ!!」

言葉では無い叫び、、、恐怖心その物を吐き出した大作は、リング中央だったにも関わらず、想像を絶する勢いでロープへと飛び付いた。

火事場のクソ力とはこういう事を言うのだろうか、非常時の人の力とは凄まじい、、、

関節を極められた状態の脚に、70㎏を超える崇をぶら下げているというのに、水泳のバタフライの様な形でロープへと飛んだのだ。


「エスケープッ!!」

アナウンスが告げると同時に、レフリーが大作から崇を引き剥がした。

直ぐに立ち上がった崇と対照的に、脂汗を浮かべ未だにロープを掴んだまま立てずにいる大作。

そこへレフリーの朝倉が声を掛けた。

「大作、立てんのやったらダウンも宣告するぞっ!」

その言葉でようやく立ち上がった大作。

屈伸して膝の状態を確かめてからリング中央へと戻った。


「ファイッ!!」

こうして再開された第3ラウンド、勝負をかけるには充分な1分半という時間がまだ残されていた。

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