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格パラ  作者: 福島崇史
155/169

選手vsセコンド

「マジで肝冷やしたわっ!」

崇の首筋にコールドスプレーを浴びせながら新木が言う。

「全く見えんかってんけど、、、俺、何を喰らったん?」

崇は先程辿り着けなかった答えを新木に求めた。

「せやろな、、見えてたら兄弟があんな大技喰らう訳あらへん」

「大技?」

「ああ、浴びせ蹴りや、、、」

答えながらも、新木が手を止める事は1度も無かった。

「あ、浴びせ、、、マジかぁ、、」

思わず新木を二度見した崇が、大きな溜め息と共に落胆の言葉を吐き出す。


それを見た新木

「アカンどっ兄弟っ!!気持ち入れ替えて行こうやっ!!」

そう言って崇の背中を思い切り張ると、湿った肌が派手に水滴を撒き散らした。

「~~~っ!、、、け、結構痛いんすけど、、、」

「控え室の仕返しやっ」

カラカラと高笑う新木をしかめ面で睨む崇だが、背を仰け反らせたその姿に、観客席で笑いが生まれている。

恥ずかしさから崇の顔がみるみる赤くなるが、張られた背中はそれを上回る早さで染まりゆき、季節外れの紅葉を舞わせていた。




「く~~っ惜しかった!やっぱ立つよねぇ~」

コーナーに戻るなりそう言う大作だが、内容とは裏腹にその顔には笑みの花が咲いている。

「フフッ」

「ん?何が可笑しいん?」

「いや、、、惜しかったって言う割には、えらい嬉しそうやからやぁ」

大作の汗を拭き終えた有川が、うがい用の水を差し出す。

口を濯ぎ、有川の持つバケツへそれを吐き出すと

「やっぱバレた?」

そう言い再び満開の笑みを咲かせた大作。

「ああ、そんだけ笑っとったらアホでも気付くわ」

バケツを置き、タオルを手にした有川がリングへと入った。


するとその時、水気を帯びた破裂音が響き、大作はその方向へと目を奪われた。

タオルで大作へと風を送っていた有川も思わず振り返る。

するとそこには歯を食い縛り、その身を仰け反らせた崇と、満足気に嗤う新木の姿が目に入った。

「ちょ、、試合中にセコンドが選手に暴行って♪」

大作は飛び出しそうになる笑いを、噛みながら必死で口内に留めているようである。

「、、、前代未聞やな」

流石の有川も思わず手を止め、ポカンとその光景を眺めてしまった。



「セコンドアウトッ!」

アナウンスと共にイスから立ち上がった大作。

「おもろいもん見せてもろたし、いっちょ気張って来るわ」

そう言ってアーンと口を開ける。

そこへマウスピースを挿し込みながら有川が言う。

「楽しみたいんは解る。でもこれは遊びや無い、、勝機が来たらきっちり決めにかかれっ!ええなっ!?、、痛っ!!」

最後に叫んだ有川が、慌ててその手を引っ込めた。

返事の代わりに有川の指を噛んだ大作。

五月蝿いよと言わんばかりに不敵に嗤い、右手をひらひら振りながらリング中央へと向かった。


未だジンジンと疼く背中を気にしながら崇が立つ。

「兄弟、解っとるやろけど、このラウンドは落とせんぞ」

マウスピースを噛ませながら新木が声を掛けたが、その表情は思いの外に神妙な物だった。

すると突然、崇が新木の眼前で天井を指差した。

つられた新木が、指し示す先へと視線を這わせて行く。

そこで崇がガラ空きになったその喉元へと地獄突き一閃っ!

勿論本気で突いた訳では無いが、虚を突かれた新木は噎せかえっている。


「何すんねんなっ!!」

言いながら涙目を向けると、崇が笑顔で親指を立てている。

「心配すんなっ!」

そう言われている様で、新木はそれ以上何も言えなくなった。

そして崇は無言で頷くとリング中央へと歩き出す、、まるで背に残る新木の手形に押され、支えられるかのように。

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