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格パラ  作者: 福島崇史
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UNCLEAN(アンクリーン)

開始と同時に大作が動いた。

ファイトの掛け声と共にぐいと前に出て行く。

無謀とも言えるほど無防備に、そして強引に間合いを詰めた。

隙だらけ、、そう呼べるはずのその動き、しかし崇は迎撃する事が出来ない。

開始するなり動いた大作に対し、様子を見るつもりで構えを取った崇。そのたった1つの動作分、反応が遅れたのだ。


(入られたっ!)

焦りから出してしまった、いや、出させられたいきなりの右ストレート。

まして大振りのテレフォンパンチが当たる訳は無い。

首を振りそれをいなした大作は、既に間合いに入っているにも関わらず、更に1歩前へと踏み込んだ。


(間合いが深い)

戸惑った崇を大作の大きな拳が襲うっ!

それは崇と同じく突然の右ストレートだった。

(この間合いで!?)

明らかにストレートを放つ間合いでは無い、、、

それはまるで崇の後ろに居る誰かを狙った様な一撃であり、当たった所で然したるダメージも見込めない、、、はずだった。


余裕を持ってそれをかわした崇。

視界の端を大作の拳が走り抜けていく。

そして深くなった間合いは組み付くチャンス。

(組めるっ!)

寝技に持ち込もうと動いた刹那、崇の視界は大きく歪んだ。

耳の奥がグワングワンと不快な音を響かせている。

倒れこそしなかったが、目論んだ攻め手は止められる事となった。


更なる追撃を狙う大作。

崇はやっとの想いでクリンチしそれを防いだ。

(!?)

何故ダメージを受けたのか一瞬解らなかったが、眼前で嗤う大作を見てようやく理解が出来た。

崇の横を駆け抜けた大作の拳は、伸びきる前にフックへと軌道を変えたのだ。そしてそれは崇の後頭部を的確に捉えた。


ラビットパンチ、、、反則である。

深い間合いから放たれた不自然な右ストレートを見ても、それが故意に狙った物である事は明らかだった。

しかしその事に気付いているのは、闘っている2人だけである。

崇は感嘆と共に感動にも似た物を覚えていた。

バレない嘘が嘘で無いのと同様に、バレない反則は反則では無い。むしろそれは高度な技術である。

確かにクリーンとは呼べない行為ではある。だがそれをあの大作がやったのだ、そこに大きな意味がある。


クリーンを絵に描いた様な男がアンクリーンな行為を行う、、、賛否両論あるだろうが、そこには大きな覚悟と共にある種の成長も窺える。

「こんなんも出来る様になったでっ!!」

そう言われてる気がして、崇は先の感動を覚えたのだった。


クリンチ、、、

攻める為に先を見込んで組み付くタックルとは違い、それは逃げの為だけの策無き抱擁。

とは言え流れを変えたり、回復する為には重要な技術でもある。

回復し、ようやく視界の定まった崇が、クリンチ状態のまま大作の耳元で囁いた。

「やってくれるやん、、スポーツマン」

大作も崇の耳元に口を寄せる。

「ああいうのは喧嘩屋の専売特許って訳や無いで」


抱き合い囁き合うその様は、まるで男女の(ねや)での睦言であるが、レフリーが不粋にもそれを引き裂いた。

「ブレイクッ!!」

朝倉が嫉妬したかの様に2人の間に体を割り込ませる。

そうして1メートル程の距離が出来たのを確認すると、直ぐさま朝倉が叫んだ。

「ファイッ!!」


試合再開と共に、先とは比べ物にならない衝撃と、視界の歪みが崇を襲った。


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