表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格パラ  作者: 福島崇史
150/169

フレンドリー・ファイア

大作はゴングと同時に飛び出し、奇襲を仕掛けるつもりだった。

しかしである、、足首を固定してある為にそれが出来ない。

思った以上に身体が動かず、自由が利かないのだ。

この足枷は想像していたよりも厄介な代物、、、

そう再認識させられた大作の顔には、色濃い焦りが見える。


対する崇は、その事を解っていた。

長年装具を着用している身である。どんな動きが出来て、どんな事が出来ないかは熟知している。

つまり、大作の奇襲が無い事は容易に予測出来ていた。

それ故に構えてから大作の動きを見る事が出来、心の余裕という点ではイニシアチブを握れている。

この辺りに本家「足の悪い人」と、にわか「足の悪い人」の差が表れるというものだ。


しかしゴングが鳴ってからのこの流れ、観ている者達には意外なものだった。

これ迄の2人の経緯(いきさつ)は殆どの人の知る処である。

そんな2人が試合前に握手を交わすでも、拳を合わせるでも無く、かといって派手な幕開けをするでも無い、、、、

大作がその派手な幕開けを狙いながらも不発に終わった事、そんな裏事情など知らぬ観客達は少々物足りなさを感じていた。


するとそれを察したのか、崇がスッと構えを解いた。

その意味を理解したらしく、大作も同じように構えを解く。

(奇襲、残念やったな)

崇の顔はそう言っている。

(ほんま赤っ恥やわ)

大作の顔はそう言っている。

そして2人は今更ながらリング中央で拳を合わせると、この後の健闘を誓い合った。

無言の会話を終えると、一先ず距離を取った2人。

そこへレフリーの声が鋭く響く。

「ファイッ!!」

仕切り直しに観客達が改めて歓声と拍手を送った。


(さて、、、どうすっかな、、、)

奇襲というあての外れた大作が唇を一舐めする。

アップライトに構え、上体を細かく振りながら思考を巡らせている。

身長、体重、リーチ、全ては自分が優っており、崇の射程外より打撃を放ちながら距離を保つのがセオリーではある。

しかし、やはりここでも装具がネックである。

フットワークが使えない、、、崇が強引に間合いを詰めて来た時に、素早い離脱をする自信は無かった。

足首の固定、、、互いに同じ条件ではあるが、「慣れ」というハンデがあり、やはり自分が不利な事は間違い無い。

(ほんと、、、どうすっかなぁ、、、)

大作は考えながら、再びその唇を舐めた。



(どう攻めっかなぁ、、、)

崇が眉間に皺を寄せる。

大作よりも少し身体を縮めた構えを取り、こちらも上体を振っている。

自分が勝機を見出だすならば、打撃で打ち合うにせよ、寝技に入るにせよ、インファイトに持ち込まねば話にならない。

かといって無策に飛び込むのは、リーチ差が大きく自殺行為と言える。

例えるならば、対空砲火の飛び交う中をグライダーで突っ込む様な物であり、崇はその光景を想像するとゾッとしてその身を震わせた。

(マジでどう攻めっかな、、、)

崇の眉間は更に深い皺を刻んでいた。


この試合は今大会において、唯一の同門対決である。

グングニルを含め、他の道場やジムの面々も仲間との試合は1つも組まれていない。

故に本日この場所で、友軍への攻撃、所謂フレンドリー・ファイアの為に戦略を練っているのはこの2人のみである。

本来やりにくく、時に残酷なはずの同門対決だが、前々から心の奥でそれを望んでいたのだろう、この2人はどこか愉しそうに見える。


お互いに様子見の細かい打撃を数発出しただけで、大した動きの無いまま既に1分半が経過していた。

観客が退屈し始めたその時である。

最初の動きを見せたのは、誰もが予想だにしていないあの男であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ