ドリンクバー
「明日、少し時間ある?、、、」
後日、大作は優子に連絡をとっていた。
その声を聞いて優子が直ぐに感じたのは
(何んか元気ない、、、)
微妙に声のトーンが沈んでいるのだ。しかし優子はその事には触れず「いいよ」とだけ答えた。
次の日、神戸駅近くのファミレスに2人の姿があった。
若い男女が会うには色気の無い、そんな店のチョイスだが気兼ね無く長時間話せるのでファミレスを選んだのだ。
席につくと直ぐに店員が端末を持ってやってくる。
「ご注文お決まりでしたら御聞きします」
マニュアル通りの対応に対し、2人ともドリンクバーを注文した。
機械的に注文を繰返し、ドリンクバーの場所を説明すると店員は去って行った。
それを見届けると、タイミングを見計らった様に大作が口を開く。
「いきなり呼んでごめんなぁ、、、」
いつも明るい太陽の様な大作、そんな彼が珍しく恐縮し表情も曇っている。
(曇天の日だってあるよね、、、)
その雲を取り払い、いつもの太陽のような顔を見たい、、、優子はそんな事を考えていた。
「らしくない事言うやんっ!やだ気持ち悪い!」
そう茶化すと優子はいつもの様にケタケタと笑った。
つられた大作も笑い出す。
「ほんまやな!らしくなかったわ!」と大作。
「わかれば宜しい!」と優子。
「こういう時はごめんじゃなくて、ありがとうやな、、、」
自分で納得したかの様に1つ頷くと、改めて正面から優子を見る大作。そして
「ありがとう優ちゃん」と心からの礼を述べ頭を下げた。
それを見て優子はドキッとしたが、それを悟られぬ様に
「それよりドリンク取りに行こっ!」
そう言うと、赤くなっているであろう顔をドリンクバーの方に向け立ち上がる。
「せやなっ!行こ行こっ!」
大作も賛同し立ち上がった。
どうやら気付かれずに済んだ様である。優子は胸を撫で下ろした。
それから暫くして優子はレモンティーを、大作はアイスコーヒーを手に席に戻って来た。
ストローに口をつけレモンティーを一口飲んだ優子は、視線を向ける事で大作に話を促す。
この頃には先のドキドキも治まっていた。
そんな視線の意味を理解した大作、バツが悪そうに先日の事を話し出す。
「、、、という訳でさ、そんな状況やったら見たくなるんが人の性やん?」
自分の正当化に全力を注ぐ大作。
優子は半ば呆れながら聞いていたが
「わかったわかった!その状況やったら私でも見てるわ、、、んで、何が入ってたん?」
大作を宥めながらも話の核心をつく。
するとさっきまであれ程必死に言い訳し、元気を取り戻したかに思えた大作だったが、その表情は途端に曇って行った、、、
「使い込まれたグローブやら、色の変わったボロボロの道着やら、他にも格闘技関係の物が色々、、、」
そう言って視線を横に流す大作。
「、、、そっか」
優子はそれしか言えなかった。
「なんか俺、めっちゃ哀しかったんよ、、、なぁ優ちゃん、福さんやっぱ未練あるんやと思うねん。だから棄てられへんのやと思う、、、」
そう言って目を伏せる大作。
優子は言葉が見つからず、大作を見つめる事しか出来なかった。
「なんか出来んかな、、、と思ってさ」
ポツリと大作が呟く。
「なんかって?」
「考えてる事はあるけど、具体的にはまだ、、、」
そう言うと大作が突然前のめりになり
「逆に何んかアイデア無い!?」
テーブルに乗り出す勢いで優子に問うた。
「え、、、いきなり言われても、、、」
狼狽する優子だったが
「ひとつだけ言わせてもらって良い?」
と前置きすると、大作の返事を待たずして言葉を続けた。
「何かしてあげたい、その想いは良いと思うし私も理解出来るよ、、、ただその想いを福さんが望んでるか、それが問題やで?」
優子は大作より少し年上である。会社という組織に属し社会で揉まれた分思慮深い。
対して若さで思った事を即行動に移して来た大作。
優子に嗜められると
「やっぱそうよなぁ、、、」
そう言ってガクンと肩を落とす。
そしてその状態のまま話し出したのは意外な内容だった。
「俺な、、、ジム辞めて独立するんよ、、、」