優子、きょどる、、、
正面玄関を入るとメイン会場となる2階試合場へと出る。
名目上は2階となっているが、1階は実質地下であり2階が1階という造りである。
見渡すとリングや本部席、招待席など主たる物は既に設置を終えていた。
今大会は「格闘技パラリンピック」という主旨の為、あくまでアマチュアとしてのイベントである。
その為、当然ながら選手にファイトマネーは支払われない。
物販の規模も小さいし、照明もプロの様にレーザー光線やスポットライトを使用する派手な物では無い。
鳥居や山下、藤井などはそんな華やかなプロのリングを経験しているだけに、物足りなく感じるかもしれないが、本来アマチュアのこういう場で実績を築き、ようやく眩しいプロのリングへと道が拓けるものだ。
嫌な言い方になってしまうが、彼等は恵まれていただけなのだ。
それにしても、、、
思い立って独立し、僅か2年足らずで目標だった事を実現するとは、、、
勿論、大作1人でたどり着いた訳では無い。
多くの協力者に支えられての事ではある。
しかしその多くの協力者を得る事が出来たのも、大作の人間力があったからこそだ。
(ほんまに大した奴や、、、)
崇が横目で見ていると、それに気付いた大作。
「ん、何?」
「いや、何でも無い。ところで天馬さん今大会でスポンサー外れるんやて?」
崇は本心を語る事はせず、話をそらしておいた。
「せやねんっ!もともと自立の目処が立つ迄って約束やったし、当初の目標やったラグナロクにもこうして漕ぎ着けた。ええ区切りやからな。ほんまに助けてもらったし、感謝しかあらへんわ。今回も招待席を用意しといたのに、チケット買うからってきかへんのよ、、、結局、会社の人達と観に来てくれるらしくて50枚も買ってくれてさ、、、最後まで頭上がらへんわ」
「ほんまやなぁ、、、」
そんな話をしていると、聞き覚えのある足音と共に優子が現れた。
「おはよっ!いよいよやねっ!福さん、ちゃんと寝れた?」
そう尋ねた本人が、目の周りに黒い影を縁取らせている。
「ああ、万全や」
己の時間を削って大会の為に動いている優子。その前で寝れていないなど口が裂けても言えなかった。
「ほんなら俺行くわ」
大作が軽く手を挙げた。
「なんや、、一緒に控え室行かんのか?」
「ほら、俺これでも一応シャッチョ~サンやからさ、色々せなあかん事あるんよ」
そう言って鼻を膨らませると、崇の向かう控え室とは逆の方向へと歩き出した。微妙に足を引き摺りながら。
「アイツ、足大丈夫なんか?」
見送りながら優子に問う。
「全然大丈夫っ!だってアレ、、あっ!!、、」
慌てて口に手をやる優子。
それを見て崇の頭上に大きな(?)が浮く。
「いや、、だってほらっ!アレ位の故障なんてよくある事やん?」
早口に言い終えると、慌ただしく腕時計に目をやる優子。
「うわっ!こんな時間っ!そろそろ行くねっ!後で控え室に顔出すからっ!」
そう言い残し、逃げる様に去って行った。
「、、、なんや、アイツ、、、」
その背を見ながら呟くと、腑に落ちぬ物を引っ掛けたまま控え室へと向かう崇だった、、、