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格パラ  作者: 福島崇史
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脱け殻

大作の肩の墨も終わりに近付いた頃の事だった。

その日の大作は自分の施術があった訳では無いが、崇の彫場を訪れていた。

無性に崇と話したい、、、理由は解らないがそう思ったのだ。

幸い他の予約も入ってなく、2人で他愛ない話に華を咲かせている。

大作もこの日は練習が無く完全オフ日だった。


「練習ないんやったら軽くどない?」

崇がグラスを口に運ぶ仕草をする。


「おっ!ええねっ!出掛けるより部屋飲みしたい気分やねんけど、、、それでもええかな?」

と、大作。

意外な返答だったが、崇も同意し

「それもええなぁ、どうせなら優ちゃんも呼ぶ?」

と提案した。

仲間外れは可哀想って気持ちが半分、後から知って拗ねたら面倒って気持ちが半分、、、そんな内訳での提案だった。

当然の様に大作は同調するものと思ったのだが


「今日は男同士でサシ飲みしような」

と、またも意外な言葉が返ってきた。

確かに女性が居ると話しにくい事もある。

男同士だからこその、この下衆い流れを変えたくないのだろう、、、崇はそう解釈した。


「わかった。少し買い出し行ってくるから、お前は留守番頼むわ」

そう言って崇がやっとこ立ち上がる。脚の悪い崇にとっては立居すら一仕事である。


「いやいや!俺が行くって福さん!」

大作が慌てて立ち上がる。

いくら対等の関係とは言え、仮にも一回り以上歳上の相手である、ましてや崇は脚が悪い、、、それは当然の行動だった。

しかし崇は

「今更いらん気ぃ使うなって。少しは動かなアカンし、ええからお前は留守番しとけって!」

そう言って制すると、大作の次の言葉を待たずして部屋を出て行った。小さく溜息をつき腰を下ろす大作。


それは不思議な時間だった。

部屋の主である崇も居ない、いつも一緒の優子も居ない、、、

考えてみればこの部屋で一人になるのは初めてである。

大作はそれとなく部屋を見渡してみる。

すると何か違和感がある。もう一度部屋を見渡し、その違和感の正体に気付いた。

いつも閉まっている押し入れの襖、今日はそれが開いていたのだ。と言っても完全に開いている訳では無い。3分の1程が開いており、それなりに中が見える状態だった。


押し入れの中は上下2段に分かれており、下には布団と毛布が見える。

そして上には段ボールが2箱見てとれた。

いけない、、、そう思いつつも大作は興味が湧いていた。

テレビ、冷蔵庫、刺青の道具、、、それ以外の物は目につかず、ほとほと生活感の無い部屋である。

そんな部屋の主である崇が大切にしまいこんである物とは一体?


見ると段ボールはきっちりと梱包されてる訳では無かった。蓋になる部分は無造作に畳まれているだけである。

崇が戻るまではまだ時間がある、、、

大作は誘惑に勝てなかった。

後から元の状態に戻せる様に現状を記憶する。

段ボールの置いてある角度や、蓋の畳んである状態、、、

(よし、覚えた)

走り出した好奇心を止める事は出来ず、大作はいよいよ箱に手をかける。

蓋を開いた大作はそれを見た時、一瞬にして哀しみが沸き上がるのを感じた、、、

「、、、福さん」

思わずその名を呟いていた。

そこで大作が目にした物、、、それは崇の悲しき脱け殻だった。

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