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格パラ  作者: 福島崇史
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会食はそれぞれの想いの中で

優子の両親と大作は勿論これが初対面である。

筋は通す主義の大作、付き合う事になって直ぐと、共に暮らし始めた時の2度、両親への挨拶を優子に申し出た。

しかし優子の返事は色よい物では無く、、、

「その内に会わせるから、少し待ってね」

という物だった。


これには優子なりの理由がある。

会社経営をしている家柄から世間体を気にする両親。

それに反発して生きて来た優子は自然と距離を置く様になり、両親もまた言う事を聞かない娘に、諦めにも似た想いを持っていた。

その結果、年に1、2度連絡を取るだけとなり、疎遠と迄は言わずとも良好とも言えない、微妙なバランスの関係となっていた事、、、これが1つ。


そしてもう1つは、人気選手となっていた大作の元にはこの先、数多の女性が現れるはずである。

まだ若い大作の心が揺れないとは限らない。

大作を信用していないというより、元々自らにコンプレックスを持つ優子は、そうなった時に繋ぎ止めておくだけの自信が無かったのだ。


そんな訳で両親と会わせる事を躊躇ってきた優子だったが、1年という節目を迎えた今、確固たる絆と離れる事は無いという確信を得る事が出来た為、今回の大胆な行動に出たのである。

何を根拠の確信かと問われたら答えようは無いのだが、不思議と得てしまった確信なのだからしょうがない。


心配だった女性の件だが、確かに女性ファンは多く周囲に異性は増えた。

しかし大作は呆れる程に包み隠さない。

女性ファンからのプレゼントや差し入れは勿論、出掛け先に女性が居る時なども逐一報告してくれる。

最初こそ妬けたものの、直ぐにそれは信頼へと姿を変えた。


そして優子から連絡を受けた両親の方も驚いていた。

「会わせたい人がおるねん」

娘がそんな事を言ったのは初めてだったからである。

関係の悪化している自分達に会わせたい、、、

それだけ本気という事の表れであろう。

いくら距離を置いていようとやはり親である、可愛い一人娘である事に変わりは無い。

親としてその相手を見定めない訳にはいかなかった。


この会食は優子は優子なりに、両親は両親なりにある種の覚悟を持っての会食なのである。

そんな中で唯一、覚悟を持つ事を許されず、奇襲を喰らった形の大作だったが、すっと立ち上がると内心の動揺を見せる事も無く

「初めまして、福田大作と申します。御挨拶が遅れた無礼、お詫びいたします」

そう言って深々と頭を下げた。


「まあまあ固い挨拶はいいから、お互い座りましょうな」

優子の父親が温和な表情でそう言うと

「あ、、立たせっぱなしですいません!どうぞお先にお座り下さい」

大作は慌てた様子で答えながらも、この場で初めて笑顔を見せる。

先の涼やかな礼儀正しい挨拶と、今見せた愛くるしく飾りの無い笑顔、そのギャップに優子の両親はたちまち魅了された。2人は互いにそれを確認しあう様に顔を見合せ、笑顔で頷き合うと着席し、大作にも座る事を促した。


グングニルとラグナロクの事は地元紙や地元局で取り上げられ、その中心人物である大作は神戸において時の人と呼べる有名人である。2人も勿論その事は知っていた。

マスコミにも「太陽」と比喩される大作の人物像であるが、それが嘘では無い事を2人は会って直ぐに理解出来た。

その後、2時間程の食事の間、完全に打ち解けた大作と優子の両親。

会話は弾み、むしろこちらが親子なのではないか、という程だった。


笑い声の絶えない会食は終わりその帰り道。

「楽しかったわ!でもさ、、あんな会わせ方ってある?来るって知ってたらちゃんとスーツも着たしやなぁ、マジ焦ったで、、」

酒も入って、陽気に愚痴る大作。

「だからサプライズって言うんやんっ♪」

「いや、、、あれはサプライズやのうてドッキリやで、、」

「まあまあ。楽しかったんやろ?ならええやんっ♪」

「確かにっ!」

「それに今回のは仕返しでもあるねんでっ!!」

「仕返し?、、、はて、俺なんかしたっけか、、、」

顎に手をやり記憶に思考を巡らせる。

「アンタも前触れ無くお父さんに会わせたやろっ!!」

大作の喉に優子の抜き手が突き刺さった、いわゆる地獄突きである。

「ンゴッ!ゴホゴホッ!!」

咳き込む大作を怨めしそうに見つめると一言。

「思い出したやろ?」

「、、、はい、、、」

喉を押さえたまま情けなく答えた大作。

グラップス退団試合の時の事を思い出し、そんな前の事を、、、女の怨みは恐ろしい、、、なんて事を考えていた。


それと同時に今日の別れ際、優子の父親が頭を下げながらくれた言葉を思い出す。

「これからも娘をどうか宜しくお願いします」

未だ喉を押さえながら、それに対し心の中で答えていた。

(まかせて下さいっ!!)



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