サプラァ~イズ再び!
「もうすぐ1年やねぇ~」
そう言って優子が大作の反応を窺う。
「ん?、、、ほんまやっ!早いなぁっ!!」
一瞬、宙へと視線を游がせた大作だったが、なんの事か気付いたらしく直ぐに感嘆の声を挙げた。
しかし優子は気に入らないらしく、頬が焼けた餅の様に膨らんでいる。
「それだけ?」
「え、、いや、、」
膨らんだ頬と、それに反比例する様に細められた目、そして全身から溢れ出る粘着質な気に大作が怯んだ。
「せっかく記念日を迎えようというのに、、、早いなぁっ!だけ?」
「い、、いや、、勿論考える、、いや、考えてたよっ!!」
「何を?」
「、、、、」
「ほらっ!やっぱ考えてないやんっ!!」
「いやいや!久しく一緒に出掛けてないし、食事でもって」
嘘では無かった。
一緒に暮らすようになり、いつも一緒なのが当たり前になっていた。職場も一緒、住居も一緒、そんな日を過ごす内にわざわざ一緒に出掛ける必要性は薄れ、事実その機会も減っていた。
しかしグングニルを立ち上げてから、全ての面で支えてくれたのは紛れも無く優子である。
心から感謝しているし、愛情が増しこそすれ薄れるなどはありえなかった。
ラグナロクが近づき忙しさの増す中、優子のストレスも増している事は感じていた大作。
それだけに記念日とクリスマスのある12月ぐらいは彼女に楽しい思いをさせてあげたい、、、そう考えていたのだ。
「食事♪マジでっ!?」
瞬時に表情が変わった優子。
細められていた目は見開かれ、尖っていたはずの口は左右に広がりその頬を押し上げている。
単純と言えば聞こえは悪くなるが、この正直さや素直さも優子の魅力である。
「うん、マジで!優ちゃんの好きなもんでええから、行く店考えといてなっ!」
「やったぁ♪行ってみたいお店あるから、予約入れとくね!あ、クリスマス前後はもう予約取れないやろから、日にち考えなきゃね♪」
跳ねんばかりに喜び、予定に想いを馳せる優子を見ていると、大作は自分まで心が暖かくなるのを感じている。
こんな時、大作は優子への自分の想いを再確認させられた。
ふと気付くと、はしゃいでいたはずの優子が、じっとこちらを見つめている。
「、、、どした?」
「ありがとね」
にっこり笑ってそれだけ言うと、大作の頬へと電光石火のキスをした。
「あ、、、ありがと、、」
何故かつられて礼を述べる大作。
「それ、なんのお礼?」
優子も訳が解らずキョトンとしている。
「いや、解らんけど口から勝手に出た、、、」
首を傾げながら照れ笑いを浮かべた大作。
「なにそれ!」
ツッコミながらもキャッキャと笑う優子、それにつられる様に大作も笑い出すと、2人の部屋は温かい空気に包まれた。
そして1週間後、その日は訪れた。
場所は三ノ宮、北野坂を少し西に入った所にある創作イタリアンの店「ベル・バール」
エミの店「コモ・エスタス?」に似た、奥に細長い造りとなっており、カウンターのみで12席。
スタッフは全て男性で白シャツと黒のスラックス、黒のエプロン姿で統一されていて全員がイケメンと呼べる容姿である。その為、必然的に女性客が多くついており、人気の繁盛店となっていた。
しかしエミの店と違って2階があり、こちらは団体にも対応出来る様にテーブル席が用意されている。
2人用テーブルが2つと、4人用が6つ。
大作と優子はこの2階席の4人用テーブルへと通された。
「いや、、2人やから、、、」
戸惑いながら呟く大作。そんな大作を
「いいから、いいから♪」
そう言って優子が手を引き4人用テーブルへと誘った。
席に着くと直ぐに店員が水とメニューを持って来た。
「ご注文はお連れ様が到着されてから、改めて窺いに参りますので」
そう言い残し立ち去る店員。
「?」
大作が怪訝な表情を浮かべるが、優子は何も言わず鼻唄混じりでメニューに視線を走らせている。
「なぁ、、4人席でお連れ様ってどういう事やろか、、」
痺れを切らせた大作が問い掛けたその時、誰かが階段を上がってくる足音が聞こえた。
大作がそちらへ目を向けると、50代半ばとおぼしき男女が上がって来ていた。
(こんな年齢なってもお洒落な店で夫婦でデート、、素敵やなぁ、、)
そんな事を大作が思っていると、その2人が真っ直ぐ自分達のテーブルへと向かって来る。
するとそれに気付いて、向かいに座っていた優子が突然隣の席へと移って来た。そして驚いた事にその2人へと声を掛けたではないか。
「思ったより早かったやん」
何が何か解らず戸惑う大作、優子の袖を引き無言で説明を求めている。
すると2人組の男性の方が物静かに口を開いた。
「君が福田 大作君だね。いつも娘がお世話になってます」
こぼれ落ちんばかりに目を開いた大作が、青ざめた顔で優子を見る。
すると優子はしてやったりといった顔で一言だけ吐き出した。
「サプラァ~イズ♪」
大作は遠くへ連れて行かれそうになる意識の中、こんな言葉がリフレインしていた。
(、、またそれか、、)