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格パラ  作者: 福島崇史
133/169

男同士

「逆に訊くけどさ、、何を根拠にそう思ったん?」

「そうって?」

藤井からの質問に答える前に質問を返した崇、しかし返って来たのは又もや質問だった。

「え、、いや、、その、、、吉川さんが俺の事をなんちゃらって、、、」

いい歳した大人が照れながら言葉を濁す。

「今日、福さんが昔の事を話してる間、ママずっと楽しそうに笑ってた」

対する藤井は淡々と答えた。


「いや、いくら何でもそれだけじゃ、、、他の皆も笑ろてたし、気のせいっちゅうか考えすぎちゃうか?」

「それだけじゃないよ。普段、僕と居る時もしょっちゅう福さんの事を話してる。で、そんな時のママはいつも楽しそう、、、だから気のせいなんかとちゃうよ」

またも藤井の口調は冷静そのものだった。


「そうは言ってもなぁ、、、だいたい吉川さんが、、、」

「福さん、ずるいよっ!!」

この期に及んでグチグチ言いかけたのを藤井の尖った声が制す。

「僕の質問には答えてないくせに、自分は質問ばっかしてさぁ、、、」

恨めしそうに睨む藤井を見ていると、崇はある種の感慨深さを覚えた。あんな内気で意思表示の苦手だった少年がよくぞここまで、、と。


「そうやったな、悪かった。」

崇は素直に非を詫びるといよいよ覚悟を決めた。

「ええ女よな。実際素敵やなって思っとるよ」

「それは好きって事?」

「ん、まぁ、、せやな、、、」

崇の手が忙しなく顔や頭を掻いている。

「良かったぁ」

そう言って藤井がようやく笑顔を見せた。


「良かった?そうなん?俺はてっきり逆やと思ってたわ」

嫉妬から出た質問だと思っていた崇は、意外な言葉に目を丸くした。

「そんな訳ないやん、、、ママが喜ぶ事を僕が嫌がると思う?」

親になった事は無い崇だが、世の親はこんな時に子供の成長を感じるのだろう、、ふとそんな事を思っていた。

とは言え藤井は未だ中学生だ、崇の持つ独特の恋愛観を理解出来るとは思えない。

それをどう話すべきか、、、しかし悩んでみても仕方がない。内に秘めたる本心を素直にぶつけてみる事にした。


「俺はお前の親父さんと吉川さんがくっついて、お前達が本当の親子になればいいなって思っとるんやけど、、、お前はそれを望んでへんのか?」

一瞬だけ驚いた様に崇に目を向けた藤井だったが、直ぐに俯くと戸惑いの混じった口調で自分の想いを述べ始める。

「望んでない、、、って言ったら嘘になるけど、望んでるってのも嘘になる、、、」

「どゆ事?」

「子供の僕が言うのもアレだけど、、パパは色々と問題ある人だから、、夫婦になったらママは絶対に苦労するもん。だから本当の親子になる事よりも、ママが好きな人とくっついて毎日笑っててくれる方が嬉しい。戸籍がどうとか関係無い。そんなの無くても僕にとっては本当のママだもん」


ワンツーから左フック、そして止めの右アッパー、、

そんなフルコンボを喰らった様な衝撃を崇は受けていた。

大事な人の幸せが自分の幸せ、、、基本的な部分で崇の恋愛観と一致していたからである。

中学生の彼がこんな大人びた考えを、、それとも自分が子供じみているのだろうか、、、

しかしどちらにせよ考えが似ているならば、理解を得られるかも知れない。そう思った崇はかつて大作と優子に語った様に自分の考えを話す事を決めた。


「凄いなお前は、、、」

先ず口をついたのはこの言葉だった。

「凄い?」

何を褒められたのか解らないといった表情を向ける藤井。

しかしそれには答えずに崇は本題へと入る。

「お前の親父さんがどんな問題を抱えてるんかは訊かへんよ。でもな俺も同じ様に問題山積み男やねん。身体も日に日に悪ぅなって、将来的に歩けんようになるやろしな。つまり俺と一緒に居たら苦労するんは目に見えとるねん、、、それも違う相手を選んだならせんで済む苦労や。なら良い相手を見つけて幸せになって欲しい、、、好きな人やからこそそう願う。これ、お前なら解ってくれるやろ?」


暫し黙って考え込んでいた藤井が静かに頷く。

口にこそ出さないが、その表情には微かな無念が滲んでいた。

「お互い吉川さんを大切に想う者同士、一緒に幸せを願おうや。で、今日話した事は男同士の秘密や、約束出来るな?」

「うん。男の約束」

固く口を結んだ藤井の頭に手を乗せ笑顔を向ける崇。

「よっしゃ!なら帰ろ!寒うてかなわん、、、ラグナロク前に風邪ひいても困るしな」

崇が立ち上がり、藤井もそれに続く。

その後も藤井の家に着くまで格闘技や学校の事、色々な事を話しながら歩いた。

礼を述べマフラーを返し、藤井に別れを告げるとエミの店へと急いだ。戻った時には店を出てから1時間以上が過ぎていた。


店に戻る迄の間、崇の頭にあったのは

(吉川さんと顔合わせ難いなぁ、、)

その一点のみだった。

それでも意を決して店のドアを開けると、大概出来上がった皆から声が挙がる

「遅いっ!!」

「悪い悪い、、少し話し込んでもてな、、、」

「心配やからそろそろ電話入れよかと思ってたんやけど、まあ無事で良かったわ。送ってくれてありがとね。で、、一彦と何を話し込んでたん?」

問うたのは話し込んだ内容の主要人物、吉川本人である。

早々のご本人登場に一瞬身を固くした崇だが、直ぐに笑みを1つ浮かべこう答えておいた。

「それは男同士の秘密や」

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