ロシア最終話 帰国
ある漫画でこんな台詞があってな、、、
「戦場ではフェアプレーこそが悪」
コマンドサンボの技術を見てたら、ほんまにそれを実感出来たわ。
同じサンボの名はついてても、スポーツサンボとは全くの別物でな、こないだの講習会でも少し見せたけど殺し技って呼べる危険な技が多い。
でも俺が見せたのはほんの一部でしかなくてや、現地ではもっとエグいのを見せられた、、、それは格闘技って呼ぶのも躊躇う様な、、、
確実に眼球を抉る方法や、簡単に耳を引き千切る方法、挙げ句は噛み付いて血管を喰い千切るやり方、、、とかな。
あと当然ながらナイフや棒術なんかの武器術もあるんやけど、それもやっぱり殺す為の技術に徹底してたわ。
どこの血管を斬れば何分で死に到るとか、どこの筋を斬れば再起不能に出来るとか、、色々な。
格闘技や武術において殺法を突き詰めたら、解剖学に行き当たるって言われてるんやけど、コマンドサンボも例に漏れずで人体構造の勉強もさせられたわ。
でもこんな技術は普通に生活する上で必要無いし、法治国家である以上は使えば犯罪者や、、、
武医同術って言葉があるように、武術と医術は通ずる部分が多いんやけど、同じ覚えるんなら殺法やなくて活法を覚えた方がよっぽどええ。
活法の代表格が大作の親父さんもやってる柔道整体やな。
柔道整復師は国家資格やから、なかなかに難しいやろけど、このまま関節技の勉強を続けたら取得も夢や無いよ。
この中からそっちに進む人間が出てくれたら嬉しく思うわ。
、、、あぁ、、ごめんな、でもそんな顔すんなって、、
確かに障害がある以上は人より出来る事は少ないかも知れん。それは俺も実感しとるよ。
でもな障害を抱えてるからこそ理解してあげれる事もあるし、人を治したいって気持ちも強くなると思う。
それにあくまで目指す人が現れたら嬉しいってだけで、なれって言ってるんちゃうからさ、軽く聞き流してくれたらええよ。
ただ、殺法より活法、、、この事だけは強く頭に置いといて欲しい。これが言いたかった事、、、ええな?
うん、解ってくれたらそれでええ。
で!後から合流した日本選手達と一緒の日に帰る事なってんけど、帰国前夜にロシア勢が送別会を開いてくれてな。
そこでもビックリする事があったんやけど、、、
俺達が居た所はお世辞にも都会とは呼べんでな、どちらかと言うと村に近い感じでさ。
娯楽施設も少ないんやけども、バーレストランみたいな所でやってくれたんよ。
当然の如くウォッカの洗礼受けてやぁ、、早い段階でベロベロなって飲めや歌えやの大騒ぎやったんよ。
そしたら突然店のドアが開いてな、1人のオッサンが入って来たんやけど、、、手に鎖を握ってたんよ。
んで、その鎖の先を目で辿ったら、、何があった思う?
みんなしてそんなアッサリ判らん言わんと、少しは考えてくれやっ!
もうええわ、答え言うでっ!
熊よ、熊っ!!
もう俺達日本勢は大パニックよっ!一気に酔いも醒めてやぁ、、、ロシア勢はその様子見て大笑いしとるし。
いや、並のデカさや無いねんでっ!!
口枷はしてあるけど爪はそのままやし、鎖のリードがある言うても、あんなん暴れ出したらオッサンが止めれる訳あらへんやん?マジでビビったわぁ、、、
聞いたらロシアでは結構ポピュラーな事らしいんやけど、熊連れて酒場を廻って、記念写真を撮らせて金を貰ってるらしいわ。
赤ちゃんの時から人間と暮らしてるから、馴れてるし大丈夫って笑ってるんやけど、相手は熊やん?
どこで機嫌損なうスイッチ入るか解らんし、暫くは戦々恐々よ、、、しまいにはオッサン、口枷まで外してフルーツとか喰わしとるしや、、、
でも30分位したら可愛く思えて来てな、デカい犬みたいに錯覚してくるんよ。最終的には抱き締めたり、肩組んだりして楽しく過ごしたわ。、、、身体中引っ掻き傷だらけなったけどなハハハ!
んで次の日帰国やってんけど、ここでもトラブルがあってさ、、、
当時はまだロシアを訪れる日本人は少なかったらしくて、4人もまとまって居る事を不審がられてな、空港で足止め喰らったんよ。
んで荷物を隅々まで調べられてやぁ、、、
そしたら間の悪い事にメンバーの1人が大量にキャビアの缶詰めを入れててな、、、
向こうではキャビアとイクラは驚く位に安くてやぁ、大概のレストランでは食べ放題でテーブルに備え付けられてるんよ。
ん?そうそうっ!日本の食堂でも食べ放題の漬物とか置いてる所あるやろ?鳥やんの言う様にまさにあんな感じや。
だからそいつは安く大量に買って、日本で売って儲けるつもりやったみたい、、、
ところが、キャビアの個人購入には数量規制があってな、そいつのはそれを遥かに超えてたもんやから、俺達全員がまるで密輸団みたいな扱い受けてさぁ、、
規制の事を知らんかったって事で疑いは晴れたけど、結局4時間近く足止めよ。
当然目的の飛行機には乗れんで、別便に乗る事なったんやけど、これがめちゃくちゃ小さい機体でさ、個人のプライベート機くらいで、機内の幅なんて阪急電車と変わらんねんもん、、、
元々飛行機が苦手な俺やん?もう決死の覚悟でさ、、
例の如く飛ぶ前に寝た訳よ。
そしたら突然メンバーが騒ぎ出してな、何事かと目が覚めたんよ。
で、機内を見渡したら白い煙が充満しとってなっ!!
火事か機械トラブルか、、、どちらにせよ、ほんまに終わった、、、って思って覚悟したんやけど、それは機内換気の為に放つフレッシュエアーって物やってさ、、、
ロシアでは当たり前なんか知らんけど、パニクってるんは俺達だけで、他の客は至って通常モード、、、恥ずかしかったわぁ。
他にもカジノで見物人が出る位にメダルが出て、ウヒョーって思ってたら日本円で数千円やったとか、街中のイベントで見たビンゴ大会の1等賞品が
「いや、それ、日本やったら廃車ですやん、、」
て位にボロボロの車やったりと、色々文化的に衝撃受けたロシアやった訳やけど、ほんまに良い経験やったし行って良かったと思ってる。
オランダやタイも面白い話あるけど、それは又いつか機会あったら話すわ。
あ、、、折角の飲み会やのに独壇場で時間使ってしもて、、ごめんな、、、
おっと、、もうこんな時間か、藤井ちゃんはそろそろ帰さんとマズいよな、送ってくから行こか!
え?ママに送って貰うって、、、女性と子供だけで何かあったらアカンから。ほら行くでっ!
あ、ええよ、ええよ、吉川さんは残って楽しんで、俺が送るから大丈夫。
とりあえず送ったら又戻って来るから。ほんなら又後でな。
こうして崇のロシア回顧録は幕を閉じた。
そして藤井との帰り道、色々話していると
(俺もこれ位の子供が居てもおかしく無いんやなぁ、、)
そんな事をぼんやりと思ったりした。
僅かばかりの親気分に浸っていると、不意に藤井がある事を口にした。それは崇の心臓を鷲掴みにする様な言葉だった。