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格パラ  作者: 福島崇史
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苦みの後で、、

崇の苦い思い出話は終わった。

話が終わっても大作と優子は押し黙って崇を見つめている。

かける言葉が見つからず、崇の方から何か話してくるのを待っている、、、そんな様子だ。

それを感じ取った崇は一言

「ありがとうな」と礼を述べた。

その一言があまりに意外な物だった為、大作は思わず

「なんで?」と訊き返していた。


「俺にとってこの話は人生最大のトラウマやねん」

ここまで言うと崇は伏していた眼差しを上げ、2人に顔を向ける。その表情は予想に反して穏やかな物だった。

「今まで誰かに話そうとせず生きて来た。せやから、どんどん心の奥の方の引き出しにしまいこんでまう」

一瞬の間を置き崇は続けた。

「結果的にそれは錆みたいに心にこびりついて、長いこと俺を苦しめてた。てか、俺自身が一生苦しむべき事やと思って生きてるんや」

穏やかな笑顔で語る崇だが、やはり哀しみの香りは隠しきれず滲んでいる。


大作は、そんな崇を見ているのが苦しくなり、、、

「だから、なんでありがとうなんよ?俺達は好奇心から福さんの触れて欲しぃない傷に、、、」

そこまで言った大作の言葉を遮り崇が言う。


「さっきも言った様に、不思議と2人には我がの事を話せるねん。で、2人は覚悟をもって俺の話を聞いてくれた訳やろ?俺が心を開いた様に自分らも心を開いてくれた、、、その結果、俺はほんの少しやけど心が軽くなった。だからありがとうって事」


「なんか、、、複雑で不思議な気分、、、」

優子が心境を真っ直ぐに口にする。その優子をチラと見て大作も頷いた。


「こんな理由で俺には格闘技をやる資格があらへんねん。

未練云々以前の話や。路上で強い事を偉い事と勘違いしてた、、、力を奮う事で敵だけやなくて仲間も傷付く事に気付かへんかったんや、、、アホな話やろ?でもこれ以降は格闘技を真っ当にスポーツとして捉える様になったわ、、、

まぁ遅過ぎたけどな、、、」

自嘲気味に話す崇はまた俯いていたが、視線を大作に向けると更に続けた。


「大作、お前は今のまま道を逸れるなよ。どつき合っても終わったら握手して抱き合える、、、それが格闘技。素晴らしいスポーツやと思う。路上でどつき合っても、残るんは遺恨と後悔や。だから日陰やのうて真っ直ぐ日向を歩くんが正しいんやと思う、、、まあ大作は大丈夫やろけどな!」

言い終えた崇はやっと笑顔を見せた。それは2人の見た崇の笑顔で一番のものだった。


崇には「兄弟」と呼び合う人間が居る。

返せない程の借りがある男、新木康夫である。

飲んだり騒いだりするだけの薄っぺらい友人100人より、深い絆で繋がった絶対なる1人の方が遥かに重い。そんな1人を得ている自分は幸せだとすら思っている。

そして今日、その絶対なる存在が2人増えるのかも知れない、、、そんな予感が先程の笑顔を出させたのだろうか。

しかし、この笑顔のお陰で大作と優子も救われたのも事実。

立て続けに彼の心に立ち入った事、その罪の意識が和らいだのだから。そんな想いが思わず言葉として口から出たのは大作だった。


「福さん!俺も何んでも話すから!」

鼻腔を膨らませ必死で訴える。その様は滑稽ですらあった。

それを聞いた優子も慌てたふうに続く。

「あ!ずるい!私もやで!」


「わかったわかった!弟と妹が出来たと思うとうから、2人も兄貴が出来たとでも思ってくれたら嬉しいわ、、、まぁ頼りない兄貴で申し訳ないけどな、、、」

崇の言葉に2人は笑顔で応える。


「おい、、、頼りないの部分は(そんな事無いよ!)とか一回否定せぇよ、、、」

口を尖らせ崇が拗ねてみせる。拗ねたオッサンは見れた物ではない、、、

「まあ、それは置いといて、そろそろ続き彫ってよ福さん」

意図的にスルーを決め込む大作。

「あぁ、そう!そういう態度取るんやったら、思いっきり痛くしたるからな!」

「大作君の痛がるとこ、私も見たい!」

珍しく崇と優子が連合を組んだ。


「あ、、、優ちゃん、そういう事言うんや、、、じゃあ訊いちゃおっかなぁ、俺らは何んでも訊けて話せる間柄なんやし、、、3サイズ、上からどうぞ!」

大作がいつもの悪戯な表情を浮かべ優子を見る。


「何それ!?最低!エロゴリラ!福さんも怒ってやってぇな!」

優子が先程連合を組んだ崇にすがる。


「いや、、、それは俺も興味あるし、、、」

崇は大作に乗っかった、、、早くも連合崩壊である。


「裏切り者~!頼りない兄貴ってほんまやわ!」

優子の声が響く中、重かった空気は完全に消え失せ、施術初日は和気藹々と過ぎて行った。

それからの大作と優子は、施術の無い時でも頻繁に崇のもとを訪れる様になり、許可が出れば他の客の施術を見学する事さえあった。


そろそろ3人が出会って2ヶ月が経とうとする。

この頃には大作の背中の墨は完成しており、優子の臍の横には美しい蝶が舞っていた。


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