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格パラ  作者: 福島崇史
124/169

ドナドナ

「5分計って」

崇が吉川にストップウォッチを手渡した。

「打撃も有りでええから、試合のつもりで遠慮無しにおいで」

崇が手招きする。

それと同時に鳥居が飛び出した。

未だ構えを取っておらず、重心も高いままの無防備な崇。

その隙だらけの足を目掛けタックルを仕掛けたのだ。

左腕の動かない鳥居には両手で刈る事は出来ない為、右手で崇の左足を捕らえ、自分の肩を押し込む様にして体重をかける。


不意を突かれた形の崇はそのまま簡単に倒された、、、

かに見えた。

しかし崇はその勢いに逆らわず、鳥居の腰辺りの帯を掴み、強く引く事で倒れる勢いを加速したのだ。

それにより、いとも容易く上のポジションを奪った崇。

「いいねぇ鳥やんっ!そういうやり方、嫌いや無いでっ!」

怖い笑顔を見せると、左手を鳥居の奥襟に滑り込ませ、固く道着を握る。

そしてその前腕を鳥居の喉に押し当てながら、右手で道着の前部を強く引いた。送り襟締めである。

苦悶の表情で瞬時にタップをする鳥居。


崇が技を解くと、鳥居はえづく様に咳き込んだ。

その顔は酔っ払いの様に赤くなっている。

立ち上がった崇は、鳥居の回復を待ちながら吉川に声を掛けた。

「今、何分?」

崇の問いに吉川が申し訳なさそうに答える。

「えっと、、、いきなり始まったからスタートのボタン押すタイミング、少し遅れてしもてんけど、、、」

「構へんよ、何分?」

「まだ21秒しか経ってないよ、、、」


2人がそんなやり取りをしている間に鳥居の咳は止んでいた。しかしまだダメージが残っているらしく、マットに手をつき肩を上下させている。

「今、俺はあえて道着を着てる時しか出来へん技を使った。でもタックルを返したやり方も、最後の絞め技も基本中の基本、、、柔道や柔術でも初期に教えるもんや。やってみてどうやった鳥やん?」


問われた鳥居はようやく息も整い、立ち上がりながら細々と答える。

「どうって言われてもなぁ、、、裸やったらあんな返され方も、あんな絞め技が来るとも想定せえへん。だから警戒もしてなかったし、そもそも防ぎ方すらわからへん、、、お手上げやわ」

言い終えた鳥居は肩を竦め首を振っている。

「ええ答えや。裸と着衣が全くの別物やって事、それを理解出来ただけでも上出来やで」

満足そうに頷いた崇を尻目に、いそいそと道着を脱ぎにかかる鳥居。その顔は終わった安堵感に満ちている。

だがそこへ無慈悲な声が飛ぶ。


「オイオイッ!何を勝手に終わってくれとんねんっ!!」

脱ぎかけた体勢のまま動きが止まった鳥居、声にこそ出さないがその顔は「へっ!?」と言っている。

「まだ21秒しか経ってへんねんで、俺は最初に5分て言うたやん。さっ!続き始めるから道着整えてっ!!」


愕然とする鳥居。

これが漫画ならば鳥居の背後は黒く塗り潰され、鳥居自身はムンクの叫びに描かれるだろう。

その様があまりに可笑しかった為、周囲の皆が指を指して笑っている。

(他人事や思て、、、)

周囲を睨みながら道着を整える鳥居。

だがそこへ追い打ちの一言が崇の口から放たれた。

「因みに1ラウンド5分で、3ラウンドやるから」

遠退く意識の中、鳥居は思った、、、

(鬼や、、この人は鬼になりはったんや、、、)

これが漫画ならば背後に稲妻が走り、口許に手を当て白目で仰け反る鳥居が描かれるはずである。


スパーリングが再開された。

翻弄されながら何度も関節を極められる鳥居。

ようやく5分が経った時にはマットで大の字となり動けずにいた。

見上げた天井の照明が、やけに白く眩しく感じる。

早い鼓動と乱れた呼吸が、体内でヘビーメタルのリズムを刻んでいる。

一方的に攻めていた崇も流石に疲れたらしく、マットへと座り込んだ。

そして一言、、、

「1分休んだら始めるで」

それを聞いた鳥居、先程まで体内で刻まれていたヘビーメタルのリズムは、絶望のドナドナに脳内変換されていた。


(もういやぁ~、、いやぁ~、、ぃゃぁ~)

心の悲鳴が頭でこだまする、、、

鳥居の地獄はまだ始まったばかりである。



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