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格パラ  作者: 福島崇史
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クリエイトのすすめ

この日は日曜という事もあり、午前からジムを訪れる人間が多かった。

障害の部も山下と松井夫婦を除く全員が揃っている。

そこへ現れた道着姿の崇に皆の視線が集まった。

「どしたん福さん?」

鳥居が目を丸くしている。

グングニルのユニフォームである為に、一応全員が道着は持っている。しかし普段の練習で身に纏う事は無く、ジム内で崇の姿は異様な物に映ったのだ。


「ん、今日から今まで教えて無かった技術を教えようと思ってな」

答えた崇は軽くドヤ顔になっている。

「教えてない技術?」

「ああ、コマンドサンボや」

またもドヤ顔で答えた崇だったが、皆の反応は思いの外に薄かった。

障害の部のメンバーは、その殆どがグングニルで初めて格闘技に触れた者だ。

その為コマンドサンボという格闘技、その存在すら知らない者が多い。


「コマン、、、ド、、何?」

藤井がきょとんとした顔で訊き返す。

(そこからかぁ、、、)

少々の落胆を見せ崇が頭を掻く。

「ロシアの国技がサンボって格闘技やねんけど、それを軍隊用に改良したのがコマンドサンボ。簡単に言えば軍隊格闘技や」

軍隊というワードに藤井の表情がみるみる曇った。

「なんか、、怖そう、、、自信ないなぁ、、」

腰を屈め目の高さを合わせた崇、藤井の頭にそっと手を置くと笑いながらこう告げた。

「覚える必要はあらへんよ。見る事と経験する事、それが大事やねん。それやったら出来るやろ?」

その顔に未だ不安を残してはいるが、藤井は力強く頷いて見せる。

崇も笑顔で頷く事で「偉いぞ」の言葉に代えた。


「と、いう訳で今日からローテーションで皆とスパーリングするから。先ずは鳥やん、お前やっ!」

腰を伸ばした崇が鳥居へと向き直り言い放つ。

「えっ!俺っ!?」

躊躇いや戸惑いでは無く、あからさまに嫌な顔を見せた鳥居。

そこへ吉川が

「頑張れリーダー!」

と声を掛けた。他のメンバーもそれに乗っかり、リーダーリーダーと口々に囃し立てている。

「ングッ!、、、わかりましたよ、、」

渋々ながらも了承した鳥居、崇の手から予備の道着をひったくる様にして受け取った。少々やけくそ気味である。

最近は皆がリーダーという単語を、鳥居にヤル気スイッチを入れ、動かせる為のキラーワードとして多用する様になっており、鳥居もまんまとそれに乗せられている。


「でも福さん、わざわざ道着を着る必要あんの?」

トレーニングウェアの上から道着を羽織りながら鳥居が問う。

「本来コマンドサンボには道着は必要無いんやけどな、サンボ着と柔術着で別物とは言え、ベースとなるサンボの技を教えるのに都合がええんよ。今まで教えてきたんは裸で闘う事を前提とした試合用の技術や。

でも考えてみ?日常で裸で闘う事なんてあらへんやろ?

道着を着る事で使える技や、入り方のパターンは格段に増えてより実戦的になる。

でもな全部を覚える必要なんかあらへん。さっきも言ったけど、経験する事が大事やねん。

絶対無駄にはならへんから」


崇が答え終わると同時に、鳥居も着替えを終えていた。

マット上で対峙する2人。その周囲に他のメンバーが集まる。

「人間が、、、格闘技を知らん人間が闘う時ってどないする?」

誰にともなく突然崇が問い掛けた。

「そりゃぁ、、殴る、、よな?」

答えたのは工藤だった。同意を求める様に周囲に視線を走らせている。


「正解っ!牙を持つ動物が噛み付くのと同じで、人間は闘う時本能的に殴る蹴るの打撃を使う。勿論、格闘家と素人やったら技術的な差はあるけども、誰かに学ばずとも皆がある程度の打撃は使えるって事や」

ここまで言って崇も周囲を見回す。

皆も頷きながら次の言葉を待っていた。


「でもな寝技は違う。学んで無い者には決して使いこなせない技術や。それだけに学ぶ価値がある。それともう1つ寝技の面白い所は、各自の工夫次第で技の入り方や複合技を作り出せるって事や。さっき経験する事が大事って言うたんは、これから教えていく事を後々皆が、自分なりに取り込んで消化してくれる事を信じての言葉や。

格闘技は創作物、、、その事を覚えといて欲しい。

じゃあ、、前置きが長くなってもうたけど、始めよか」


熱く語ってしまった自分に、少し照れた様に崇がはにかむ。

そして引退する前の置き土産「特別講習」が幕を開けた。


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