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格パラ  作者: 福島崇史
122/169

下?上?上!!

グングニルの更衣室。

他のスタッフに紛れ着替える崇の姿があった。

これ迄は身体中にある刺青を見られぬ様にと、トレーニングウェアを着て出退勤する事が多かったのだが、皆に過去を話した今となっては隠す必要も無くなり、ジムに着いてから着替える様になった。


しかしこの日の崇はいつもと違っていた。

トレーニングウェアでは無く、道着に身を包んだのだ。

手には帯で束ねた道着が別にもう一式持たれており、足にはシューズを履いておらず、素足に装具を着けているのが剥き出しとなっている。

そしてその足の甲には、もう1つ目に映える物があり、大作が誰よりも早くそれに気付いた。


「福さん、、、それ、、、」

低く落とされた大作の視線を自らも追う崇。

「あぁ、、、これな、、、」

見つかったかとばかり、バツが悪そうに頭を掻くと

「辞めるって決めた時に自分で彫ったんや」

そう言って右足の甲を大作の方へと軽く傾ける。

そこにはグングニルのエンブレムである、三ツ又の穂先がその存在を誇示していた。


「あっ!自分だけずるいっ!!」

叫びながらも子供みたく目を輝かせる大作を見て、崇は次に大作が言うであろう台詞までも予想が出来た。

「俺も入れるっ!!」

(ほら、、やっぱり、、、)

あまりに予想通り過ぎて笑いそうになる。

それと同時に次の展開までもが目に浮かんだ。

そしてそれは数分後に現実の事となる。


更衣室を出てからも尚、俺も入れると言い続けている大作。

「わかった、わかった、、、近々彫ったるから、、、」

根負けした様に崇が言うと、不意に背後から声が掛かった。

「なんの話?」

予想通りに登場人物が増え、予想通りに発展していく。

即ちこんな流れである。

大作が騒ぐ→優子が話に加わる→大作が事情を説明する

→優子も騒ぐ、、、


「あ~っ!!ずるいずるいずるいっ!!私も入れるっ!!」

どんどん似てくる大作と優子に頭を抱えそうになるが、ここまで予想が的中すると

(俺、冴えてる♪)

と逆に気分が良くなってきていたりする。

直ぐ脇で「俺も入れる」「私も入れる」と未だ騒ぐ2人の声、それによりようやく我に返った崇。

このままでは埒があかないと危機感を覚え

「わかったから少し落ち着けって、ちゃんと彫ったるから、、、でもその話は後や、とりあえず先ずは練習させてくれ」

そう言って2人を宥める。


素っ気ない言葉に唇を尖らせた2人だが、思い出したように大作が口を開いた。

「それはそうと、福さん、、、なんで道着なん?」

(え、、、今更、、、?)

「ほんまやっ!気付かんかった!!」

(眼科行ってこい、、、)

そんな心の声を出す事はせず、淡々と理由を答える崇。

「今日から毎日、日替わりで障害の部のメンバーとスパーリングするつもりやねん。皆にコマンドサンボの技術を経験させたくてな。だから相手用の道着も用意して来とるんや」


手にしたもう一組の道着を見せ

「そんな訳で忙しいから墨の件はまた後でな、、アデュ!」

そう言うと、おどけた顔で敬礼するように手を挙げ、そそくさと背を向けた。

その背へと下唇を突き出し、親指を下に向け、無言のブーイングを浴びせる2人。

すると崇が突然振り返った。

目にも停まらぬ速度で2人の親指は上向きに変わり、突き出ていた下唇は口笛を鳴らしている。


「???」

当然何を賞賛されているのかが理解出来ず、崇は首を傾げたが、、、

(ま、いっか)

と、無理矢理に自分を納得させると

「墨、、、彫り代は要らん。その代わり近々エミさんの店でしこたま飲ませろっ、、ええなっ!?」

そう言って笑った崇が再び背を向けた。

2人はきょとんとしてその言葉を受け取ったが、互いに顔を見合わせると、親指を上向きに立てたまま笑顔でその背を見送った。


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