伝言希望
「なあ、大作、、、一般の部のメンバー、なんとか明日の夜に全員集められんやろか?」
中岡が帰った直後、崇の第一声である。
突然過ぎるのは理解しているが、無理を承知での頼みだった。
「ん~、、、まあ一応全員に連絡は入れるけど、やっぱ何人かは無理な人間が出て来る思うで、、、」
「ああ、それはしゃあない。来られへん人間はチェックして教えてくれ。障害の部には俺から連絡入れるから」
崇はそう答えると、早速LINEグループを通して皆に集合を呼び掛ける。
この崇の行動の意味を大作は理解していた。
以前、格闘技プレスのインタビュー記事により、崇がグングニルを去る事を初めて知ったメンバー。
「何故教えてくれなかった?」
と彼らが詰め寄った事があった。
元々自分の事を話すのが苦手な崇からすれば、雑誌に載れば自ら話さず楽に済む、、、くらいに思っていたのだが、皆に責められた事で、事実というのは本人の口から聞かされるのと、他を介して知らさせるのとでは大きな差があるという事を知らされた。
いや、、、勿論いい歳をしたオッサンである崇だ、知ってはいたのだが、皆がそこまで大きな事として捉えてくれていたとは思って無かったのだ。
そんな事があって間が無い上での今回である。
崇が己の過去を皆に話すつもりなのは、大作にも直ぐに解った。
「福さん、何時集合で連絡したらええのん?」
スマホを手にスタンバった大作が尋ねる。
「ああ、一応夜8時にしといて」
答えを聞くや否や大作もグループへとLINEを送った。
翌日の夜、障害の部は全員が揃ったが、やはり一般の部は人数が多い事もあり、数名の都合が合わなかった。
リング下に皆を集めると、崇がその前に立つ。
大作から話を聞いた優子は事情を知っている。
新木にも崇が事前に話しておいた。
しかしその他のメンバーは全く事情が飲み込めず、何事かと不安そうに様子を窺っている。
「突然集まって貰って、、驚いたやろ?ごめんな」
そう切り出した崇は、前日に中岡が再びやって来た事を告げると
「恐らく明日か明後日の神スポに俺の記事が載ると思う。どうしてもその前に、自分の口から皆に話しておきたくてな」
そう前置きをしてから本題に移った。
「いきなりやねんけど、、、俺には前科があるねん。どこで仕入れたか知らんけど、中岡のオッサンはそれを記事にするぞと言って来た。仮にも指導者が前科者なんは問題あるんちゃうか?会員やその家族に知られたらヤバいんちゃうか?、、、ってな」
前回の脅迫紛いの件を知る面々は、みるみる内に色めき立つ。口々に中岡を罵り、怒りの言葉を吐き始めた。
「ウェイ、ウェイ」
そう言って皆を宥める崇、未だざわつく面々を前に更に続ける。
「書きたきゃどうぞご自由にってハネ退けたからな、、、記事にはなるやろと思う」
そう一言挟むと、中岡に話した様に自らの過去を包み隠さずに全てを話した。
あまりにも重いその内容に、暫し押し黙ったメンバーだったが、一般の部のメンバーの1人がそろりと言葉を発した。
「でもさ、、聞いてる限りは火の粉を振り払っただけで、どれも福さんは悪く無いよね?」
他のメンバーも頷いたりして賛同の意思を示している。
「でもな、それでも俺がパクられた事や、1人の人間が亡くなってるってのは事実や、、、だから今話した事を帰ってから家族にも全て話して欲しいねん。」
家族にも、、、崇の口から出たその意外な言葉に、皆が再びざわついた。
「何もそこまでせんでも、、、」
誰かが口にする。
「いや、家族の誰かが記事を目にする事もあると思うしな、その前に皆の口から話して欲しいねん」
そこまで言うと崇の表情が気まずそうな物に変わった。
「その上で、、、1つお願いがあるん、、やけど、、」
言い辛そうに途切れ途切れの言葉を紡いだ崇、突然床に座し姿勢を正す。
そして手をつき頭を下げると、声を搾り出しながら己の願いを皆に伝えた。