繋がった過去
ー ー ー 作者よりお詫び ー ー ー
前回で年内最終とお伝えしましたが、まだ更新出来そうだったので更新させて頂きました。
ややこしくてすいません。この場でお詫びさせて頂きます。
それでは本文をお楽しみ下さい。
「ワシ実は出戻りでな。今の会社を1回辞めてんのよ」
そう切り出した中岡。2人は黙って続きを待っている。
「元々スポーツに全く興味が無かったんでな、スポーツ新聞社の中でも芸能部の方で記事を書いとったんや。そうこうしてたら芸能記事でもゴシップばっかり興味が行ってしもてな、、、会社としても掲載出来ん、NG食らう様なギリギリのネタばっかりなってしもうて」
1度言葉を止めて2人を見る中岡。その表情は照れ笑いにも、しかめっ面にも見える。
「やっとる事は今とそんな変わらんやん、、んで?」
半分呆れて崇が問うと、更に中岡が続けた。
「足で仕入れたネタが記事に出来へん、、、それがストレスでな。なら載せてくれる所に持ち込も思って、会社辞めてフリーライターなったんや。で、いわゆる実話○○系の雑誌で書くようなったんやけど、それが15~16年前の話や。あの系統の雑誌って裏社会の事も結構載せてるやろ?次第にそっち側に興味が行って色々取材する様になったんや。んで、初めて取材したそっち側の事件がアンタの言うその事件やったって訳や」
うっすらと話が見えてきた崇、黙って中岡を見つめている。
ここは自分が出張る時では無いと、空気を読んだ大作も口を挟まず様子を見ている。
崇と目を合わせたまま、思わせ振りな笑顔を浮かべる中岡。
「アンタの事はよう知っとるよ、、、て言うか思い出したってのが正しいんやけども、、、一般の新聞やテレビでもデカく取り上げられたよな?」
問いに無言で頷く崇。
「初めての裏社会との接触って事もあって、あの事件の事はよう覚えとるよ」
そう言って中岡は感慨深げに数回頷くと、当時の事を懐かしむ様に話し始めた。
「アンタの相手した五木、今でこそ神戸湊組の若頭補佐、えらい出世して大幹部様やけど、あの事件の時はどうしようもないチンピラでな。名古屋の組を破門なってもうて、神戸に戻って来たはええけど、当然こっちでも受け皿なってくれる組なんざぁ見つからへん、それで荒れとったみたいやなぁ。で、事件後に色んな組の人達に五木の事を聞きたくて取材しとったんやけど、必ず出てくる名前があったんや、、、それが福井 崇、つまりアンタって訳や」
崇に向けた指を軽く振る中岡に大作が疑問をぶつけた。
「まぁ福さんも顔切られとるし、被害者の1人やから取材の過程で名前が出て来るんは解るんやけど、なんでそんなに組関係から頻繁に名前が出たんや?もしかして、そっちの業界に敵視されて目をつけられた、、、とか?」
中岡が小さく横に首を振る。
「その逆や。ケンカしか取り柄の無い奴ってのは昨今の極道社会では必要あらへん。そういう意味で五木は手のつけられへん問題児やった訳や。しかし福井はんはそれを倒した上に、刃物を持って戻った五木に対しても、仲間を逃がす為に素手で立ち塞がった。その胆力と漢気が話題になったみたいでな、各組関係者に注目された、、、例えるならドラフトにかかったって訳や。なぁ、せやろ?」
一瞬の間を置き、溜め息と共に崇が頷く。
「ああ、、、実際2つの組が支度金と手土産持ってスカウト来たわ」
「その話は初耳やな、、、よう断れたな」
大作は驚きを隠せない様子だ。
「どこの組にも入らない、そして業界とは関わらない、、、そういう約束で納得してもらったんや」
「でも彫師してたらどうしても、、、あ、そっかっ!福さんは極道お断りの彫師やったな!そういう理由があったんや」
どうやら納得出来たらしく、満足そうな表情の大作。
2人のやり取りを黙って見ていた中岡だったが、いい加減痺れを切らしたらしく、大きく声を張った。
「とにかくやっ!!」
その声に2人が視線を向けると、通常の声量に戻した中岡が更に続ける。
「思い出話はここまで、、、本題とは別の話や。この件は記事にさせてもらう、、、宜しいな?」
真顔で真っ直ぐ己を見つめる中岡に、柔らかな笑顔を返した崇。
「勿論構いませんよ。どのみちラグナロクが終わったら引退して、グングニルも去る身やしね。お好きな様にどうぞ」
そう答えながら崇は、ある決心を固めていた。