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格パラ  作者: 福島崇史
114/169

皮肉丼

「まいどっ!」

その男は突然現れた。

最初に気付いたのは大作、、

何気無しに入口に目を向けると、顔だけをドアから覗かせてニヤニヤしてるその男が目についた。

「チッ!、、アイツ、、」

大作の舌打ちが聞こえた訳では無いが、それと同時に崇もその存在に気付いたらしい。

入口に目を向けると溜息をつきながら首を横に振っている。


そんな2人の態度を楽しんでいるらしく、ガムを噛みながらウキウキとジム内に足を踏み入れた男、、

世界不快ランキングなどという物があるならば、上位入賞間違い無しの男、神戸スポーツの中岡である。

「その節はどうもね」

短い一言にたっぷりの皮肉を載せて挨拶を口にする。

もし皮肉というのが本当に肉ならば「皮肉丼大盛り」といった所だ。


対する崇

「良い記事書いて頂いて。取材受けた甲斐がありましたわ」

こちらは「皮肉丼特盛り」で返した。

「アホ言いな、、一応ワシもブン屋やで?万人受けする事を書いたまでや。あんなもん本心や無いわいな」

そう言って中岡が鼻を鳴らす。

「アポ無しって事は、、入門か?」

大作が近づきながら意地悪な事を口にする。

からかう相手を見つけたからか、その顔は意外にも楽しそうだ。


「何が悲しゅうてこの歳なって、痛ぁて、しんどい思いせなアカンねんな」

耳に小指を突っ込みながら答える中岡。

しかしその顔も大作と同じく楽しそうである。

それを見ていた崇は

(この2人、、ひょっとしたら仲ええんちゃうやろか、、)

とすら思っていた。


「入門やないとなると、ご用向きは何かいな?アポ無しの取材受けるほど暇とちゃうで」

大作の言葉を受けた中岡がジム内を見渡す。

この日、障害の部には松井夫婦と藤井しかおらず、一般の部も5人程しか姿は見えない。

極端に暇と言ってよく、崇をはじめ鈴本や高梨のインストラクター勢も、自分のトレーニングに集中していた程である。


中岡は遠くを見る時の様に、額に手を翳しながらジム内を見ると

「はぁ~っ!こりゃ大盛況やっ!!忙しい所すんまへんな」

腹立たしいほど大袈裟で、滑稽なほど白々しい台詞を吐いてみせた。

「そんなんいらんから、用件言いぃな、、」

皮肉丼で胸焼けをおこした崇が面倒くさそうに促す。

その言葉を待っていたかの様に口角を上げた中岡。

「いや、なに、、ちょっと確認したい事があってな、、」

口元は緩んだままだが、様子を窺うその目は笑っていない


「なんや、、やっぱ取材かいな、、それやったら正式にアポを、、」

その言葉を遮るように、胸ポケットから抜いたペンを崇に向ける中岡。

「1つだけや、、固い事言いなさんな、、」

崇は迷った、、この男がアポも取らず、嬉々としてグングニルを訪れた、、という事は、まかり間違っても良い話な訳が無い。


(どうする?)

視線で大作に問う。それに気付いた大作は

(しゃあないな、、)

とばかりに小さく頷いた。

「1つだけ、、やな?」

中岡を睨み崇が問うと

「あぁ、1つだけや」

飄々と中岡が答えた。


長い鼻息で空気を抜き切ってから

「なら、どうぞ」

と崇が促すと中岡の目が鈍く光った。

先迄纏っていた緩い空気は消え、ヌラヌラと抜かれた日本刀の様な空気に変わる。

「ちょっと小耳に挟んだんやけどな、、アンタぁ前科あるらしいな?」


予想外の言葉の刃は、容赦無く崇へと降り下ろされた。




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