内緒っ!!
突然頭を下げた優子に面喰らう鳥居、山下、マスターの面々。
「えっと、、まずどっちから話を聞こっかなぁ、、」
鳥居はポリポリ頭を掻きながら、マスターと優子を交互に見ると、マスターの方で視線を止めた。
「まずはマスター、、あの時って、、いつの事?」
問われたマスターだが優子の狼狽ぶりを見て、自分の一言が地雷だった事を悟ったらしく、躊躇いを見せながらそろりと答えた。
「ん、、鳥居君が室田さんに連れられて、初めてこの店に来た時、、、なんやけど、、」
言いながらも優子を窺っていると
「気遣ってくれてありがと。でもこっからは自分で話すから、、」
優子はそう言って力無く微笑むと、意を決してあの時の事を話し始めた。
「あの日ね、私、、一番奥の席に居たの、、そしたら長老と鳥やんが隣の席に来て、、気付いたんやけど、不思議な組み合わせやし、どんな話するんやろっ、、て。興味というか、、、好奇心に負けちゃって。衝立で見えないのを良い事に2人の話を盗み聞きしちゃったの、、ほんとにごめんなさい」
全てを打ち明け、再び頭を下げる優子。
「え、、マジで?全部聞いてたん?」
愕然とした鳥居が問い、困り顔の優子が頷く。
「いやはや、、あの時そういう状況だったとは、、」
マスターが呟くと、まるで話が見えていない山下が少々焦り気味でぼやいた。
「ちょ、、俺だけ置いてきぼりやねんけど、、誰か説明してくれん?」
慌ただしく皆に視線を移しながら救いを求めている。
そこへ女神降臨が如く優子がちょこんと手を挙げた。
「私が話すよ、、でも端折ょりながら、大まかにザックリ話すから、、そのつもりで聞いてね」
端折ょって、大まかで、ザックリって、、
そんだけ削ったら原型残らんやろ、、とも思ったが、それはおくびにも出さず黙って頷き、、、先の思いは飲み込んでおいた。
「鳥やんと山ちゃんが試合したやん?あの少し前の事やねんけど、今日と同じで外回りの帰りにこの店に寄ったんよ、、そんで、ほら!あそこの衝立の向こうの席、、あそこに座ってん」
優子が店の一番奥を指差すと
「おぉっ、、あんな所にも席あったんや、、」
と山下。
「そうやろ?俺も初めて来た時は気付かんかったわ」
山下の言葉に鳥居も同意する。
「でしょ?人目につかんで落ち着くから、空いてる時はあそこに座る事にしてるねん!」
少し得意気な顔をした優子だったが、今の自分の立場を思い出したらしく、再び小さくなると上目遣いに続きを話し始めた。
「そんでね、、隣の席に誰か座ったなぁ、、って思ったら、聞き覚えのある声でさ、、それが鳥やんと長老やったって訳、、ここまではOK?」
問われた山下、指で小さく輪を作りながらも
(それ、さっき言いましたやん、、どこが端折ょってんねん)
と思っていた。
「鳥やんと山ちゃんならわかるけど、鳥やんと長老って珍しいやん?だから、、つい、、」
そこまで言い、突然鳥居へと目を向けると
「でもねっ!聞いた話の内容は誰にも話してないからっ!!もちろん大ちゃんにも福さんにも言ってないからっ!!」
そう必死で訴えた。
顔を赤く染め、跳ねる勢いで訴え掛けるその姿に、鳥居は笑いを堪え切れない。
「ングッ、、グフッ、、フフフ、、」
せめてもの気遣いに、、と、くぐもった笑いで済ませようとする。
そんな鳥居を見た優子が、不安そうに一言
「ほんまやで、、」
「わかってるって!優子女史を信じるよっ!!」
「ありがと、、そして、ごめんなさい、、」
又もや頭を下げる優子に
「もうええってば!こっちこそ秘密にしてくれて、ありがとう」
そう言って鳥居も頭を下げた。
「でも確かに妙な組み合わせよなぁ、、言われてみたら鳥やんと長老って急に仲良くなったもんな。この時の話の内容ってのが関係しとるん?」
口にしたのは山下である。
「あぁ、、あの日以来、俺と長老は友達や。もちろん今も、、、な」
その言葉にマスターと優子の顔が綻ぶ。
「私は話の内容を知ってるだけに、良い関係やなぁって思ってた、、あっ!思ってる」
過去形を慌てて進行形へと言い直す優子。
「不思議な魅力を持った御仁ですからねぇ、、年齢を越えた友人ってのも頷ける」
優しい口調で感慨深そうにマスターが言う。
皆が長老、、室田の事を思い出し、心が暖かくなるのを感じていた、、ほんの少しの切なさを伴いながら。
「しかし、、興味が湧くのはしゃあないよなぁ、、俺でも盗み聞きしてたと思うわ、、で、どんな事話したんよ?少しくらい教えてぇなぁ」
甘えた声を出す山下に、鳥居と優子が口を揃える
「内緒っ!!」
「なんやそれぇっ!結局は俺だけ蚊帳の外やんけぇ~」
山下が不服そうに叫んでいたその頃、、
グングニルジムには再びあの男が訪れていた、、