中岡の真意
「ほな、お言葉に甘えて続けさせて貰おか」
中岡の言葉でインタビューが再開されようとしている。
(ええんか?)
視線で問う崇に、小さく頷く事で大作が応える。
吐き出しかけた怒りを再び飲み込んだ崇。
しかし腹におさめたそれは消えた訳では無く、飛び出す機会を窺いながらグツグツと煮えている。
その不快感は崇を余計に苛立たせた。
そんな不穏な空気等どこ吹く風と、中岡はインタビューを再開させた。
「障害者を見世物的に扱っている、、そんな意見もあるんやけど?」
前屈みでペンを握り、上目使いに問う。
その顔面に拳を叩き込みたくなるが、そんな衝動をグッと堪えると、崇は冷静を装いながら質問へと答えた。
「例えばサーカス、、あれだって観て楽しむ人間と、動物愛護の目線から批難する人間が居る訳です。思想や立ち位置、環境なんかでも正義と悪の定義は変わる、、確かに無理にやらせてるなら見世物と言われてもしょうがない。けど、ラグナロクは皆が自らの意志で目指している事ですから」
「つまり自分達が正義で、批難する連中が悪って事やね」
言いながら中岡が、又も捻曲げた言葉をメモ帳に書いた。
(ラグナロクの障害者はサーカスの動物みたいな物)
(批難する連中こそが悪)
それを見て崇の内部で沸騰し続けていた物が、ついに外へと飛び出した。
「んな事ぁ言うとらへんやろがぃっ!!」
テーブルをバンッと叩き、立ち上がったその姿はケンカ屋だった若き日のそれに戻っている。
慌てて大作も立ち上がり、崇の肩に手を置くと
「堪えてくれ福さん、、俺を信じて、、」
そう耳元で囁いた。
俺を信じて、、その言葉の意味する所は解らないが、確かに今、問題を起こしては、折角実現が目の前となったラグナロク開催に影響も出かねない。
まして相手は新聞記者、、その手で書かれる記事は影響力も大きく、現状で敵に回すには分が悪い。
かと言って謝る気もさらさら無い。
崇は軋む程に歯を噛み怒りを堪えると、中岡に鋭い視線を射したまま無言でソファへとその身を預けた。
続いて大作も腰を下ろし、動じる事も無くニヤついたままの中岡へと逆に質問を投げ掛ける。
「なあオッサン、、アンタはどうなんや?」
「どうって、、何がや?」
「さっきからラグナロク否定寄りの感じがするんやけど、それがブン屋としてのアンタの真意かって事よ」
そう言われた中岡は、耳に小指を突っ込むと面倒臭そうな顔で答える。
「まぁ、その兄ちゃんの言う事は解るんよ、、確かに正義やら倫理なんざぁあやふやな物や。絶対悪と思われとる殺人ですら、戦場では正義になるさかいなぁ、、でもなワシにはそんなもんは関係あらへん」
そこまで言うと1度言葉を切り、耳をほじっていた小指にフッと息を吹きかける。
そしてより一層の下衆い表情でこう言い放った。
「ワシは強い方につく」
崇は呆れた、、いや1周まわって、そのクズっ振りに潔さすら感じていた。
大作はと言うと、溜め息をつき両手を肩の高さで広げて見せている。
「とんだジャーナリズムやな」
崇の言葉に中岡の表情が変わった。
笑みは消え、暗い眼差しで崇を見据えている。
「青臭い事を、、そんなもん、とうの昔に失くしたわ、、、考えてみ?ワシは今54歳や。定年も見えたこの歳なって、何の肩書きも無いヒラのペーペー記者のワシが、そんな情熱持っとる思うか?」
吐き捨てる様に言う中岡。
「その話、年齢関係あらへんやろ。元々情熱も何も持ってなかったから、その歳なってもヒラのペーペーなんとちゃうん?」
核心をついた大作の言葉に、グウの音も出ない中岡
が顔をしかめた。
「まぁアンタの境遇なんか知った事っちゃ無いわ。それより強い方につくって事は、アンタの中では反対派の方が強く見えてるって事か?」
大作がぶつけた新たな疑問に
「いやいや、そういう事や無くてな、、」
俯いて頭を掻き、又もフケの雪を降らせた中岡。
暫くして上げられたその顔に先程までの陰りは無く、またしても下衆い物へと戻っていた。
そして鼻先を2~3度掻くと、顔を近づけ囁く様にこう続けた。
「どっちが強い弱いってのは、とりあえず置いといてやな、、、今アンタ達が目にしてるメモ帳の内容、、これが記事になったら、どないやろか?って話をしたいんやけどな、、」