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格パラ  作者: 福島崇史
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そうっ!それっ!

9月に入り崇は37歳となっていた。

まだまだ残暑は容赦なく、40代を強く意識する年齢となった今、あのグングニルジムの茹だる様な暑さと、そこでのトレーニングはかなりキツかった。

その疲労はまるで重ね着の様に、重くその身に蓄積されている。

そんな只でさえ肉体的負担が掛かる中、ありがたい事に精神的な負担をも優子が持ち込んでくれた。


「ビッグニュース!!」

外回りから戻った優子は、ジムのドアを開くなりそう叫ぶと、テケテケと小走りに崇の方へと近付いて行った。

その後ろからは、優子と一緒に行動していた吉川が同じく崇を目指して、ゆっくりした足取りで歩を進めている。

そしてその顔には、いつもの乾いた物とは違う類いの笑顔が浮いていた。


優子の叫びにより、その場に居た誰もがそちらを注視する。ビッグニュースとはなんぞや?という期待を込めた視線が優子へと集まっていた。

当然崇もその中の1人だったが、一直線に自分へと向かって来る優子と、悪戯な笑みを浮かべた吉川、、、その光景が目に入ると嫌な予感しかしなかった。


一瞬逃げ出したい衝動に駈られるも、絶望感からか体が動かない。

(あぁ、、蛇に睨まれた時の蛙の心境ってこんな風なんや、、)

などと妙な納得が頭に浮かぶ。


目の前で小走りを止めた優子。

少し遅れて吉川もそれに並ぶと、2人は顔を見合わせニヤリと笑う。

それを見た崇の中で、先までの嫌な予感は確信へとその姿を変えた、、

そんな崇にとって、2人のその笑顔は恐ろしく獰猛な物にしか映らない。

(あぁ、、蛙を見つけた時の蛇って、きっとこんな風に笑うんだ、、)

勿論蛇が笑ったりしない事は解っているが、そんな比喩でこれから起こるであろう事に対し、無理矢理に自分を納得、、、いや、諦めさせたのだ。


「取材のお話頂きました!はいっ拍手ぅ~♪」

ジム全体に響く声で優子が叫び手を叩くと、続いて吉川も手を叩く。

どよめく会員達の中、内心ほっとした崇。

ようやく発令中だった心の警報を解くと

「おおっ!ええ話やんっ!」

そう答えた。

しかし、、不服そうに口を尖らせた優子が、据わった目で崇と周囲を睨め回す。

「私、、拍手ぅ~って言ったんやけど、、聞こえなかったとでも?、、」


その迫力に圧され、慌てて拍手を始める崇と会員達。勿論その表情が強張っているのは言うまでも無い。

もし「グングニル最強は誰?」などという質問をされたなら、それは愚問という物、、

ジムのメンバーなら誰もが口を揃えて優子の名を挙げるのは間違い無い。

もはやツンデレの女帝キャラとして君臨している優子だが、勿論の事皆はそれを不快になど感じておらず、むしろその関係を楽しんでいる。

それはグングニル設立以降の働きにより優子自身が得てきた信用と、本当は愛らしいその人間性を皆が知るからこそ成り立っているのだ。

いわば信頼のもとで行われている「寸劇」の様な物である。


「フム、、まぁよしとしよう」

皆の拍手に一応の納得を見せた優子。

コホンと1つ咳をはらうと、改めて続きを口にする。

「ラグナロクの日程が決まった事を報告したらさ、格プレさんと、神スポさんが依頼くれてねインタビュー受ける事なったから♪」

格プレ、正式には格闘技プレスという名称なのだが、格闘技ファンなら誰もが知る一流の専門誌である。そして神スポこと神戸スポーツも、地方紙のスポーツ新聞とはいえ、地元での知名度は高く購読者も多い。


そんな雑誌と新聞に大作の言葉が載るのだ、、その反響は大きい物となるだろう。

「マジでええ話やんっ!」

そう言う崇を見て、優子と吉川が少し落胆した様子を見せた。

「えぇ~、、なんか、、予想してたリアクションじゃない、、」

と優子


「ねぇ、、ガッカリだわ、、」

と吉川


「もっと、、こう、、ゲゲェ~!!って言ってくれると思ったのに、、」

ゲゲェ~!!の部分で目を見開き、口元に手の甲を当てて、軽く仰け反る仕草を見せる優子。

吉川も口をへの字に結び、ウンウンと頷いている。

「んなアホな、、芸人やあるまいし、、それに大作はグラップス時代から何回もインタビュー受けとるやん。グングニルなってからは初めての事とはいえ、そこまで驚かへんよ、、」

呆れ顔で答える崇を、呆れ顔で見返す2人。

暫し流れる沈黙に崇が首を傾げると

「、、何言ってんの?インタビュー受けるんは福さんやで」

と優子が答え


「2社様共に福さんをご指名やから、、」

と吉川が補足する。

一瞬2人が何を言っているのか理解が出来ず、呆けた顔で2人を凝視する、、そして再び流れる沈黙。

それを引き裂く様に、崇の悲鳴にも似た叫びが響いた。


「エェェェ~ッ!!」

口に手こそ当ててはいないが、その目は大きく見開かれ、上半身は軽く仰け反っている。

空気が足りないかの様に口をパクつかせる崇の前で、ほぼほぼ望み通りのリアクションを見る事が出来た2人。

「そうっ!それっ!」

と声を合わせると、満足気な笑顔でハイタッチを交わしていた。

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