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序、 ぷろろーぐ

「どっか行きたい」

「は?」

 開幕一番、我がままっ子のような具体性皆無な言葉を呟いたのは、今回も今回とて筆者かつ主人公であるくらうでぃーれん(長いので以下くらう)である。

 場所はくらう宅。くらうの話し相手は半同居人のきょーこである。きょーこは机の上に座って、怪訝な表情でくらうを見上げた。

 机の上で、というのは決して、きょーこがとても行儀が悪いという意味ではない。まあ、良いわけではないが。

 きょーこが机の上にいなければならない理由は簡単、そうしなければくらうと普通に会話ができないから、である。

 と、いうのもこのきょーこ、男女が同じ部屋で生活しているなどといえば何か甘酸っぱい展開でも待ち受けていそうなものだが、残念なことにくらうときょーこの間にはそのような空気は全くない。理由はきょーこの存在そのものである。

 腰を大幅に超えるほどに長い燃えるように赤い髪は、黒いリボンでざっくりとポニーテールにまとめられており、服装は淡い黄緑色のパーカーにデニムのホットパンツ。鋭い目つきに口の端からのぞく犬歯は、彼女の好戦的な性格をわかりやすく示してくれているかのようだ。どこぞの魔法少女に似ている気がするのは、もちろん気のせい、偶然の出来事である。

 ――そして頭の上には銀色の輪っかと、そこから伸びる、ぶら下げるのに便利そうな1本の黒い紐。

 身長約3センチメートルの彼女は、どこからどう見てもストラップだった。だがしかし、きょーこはしゃべって動く。それはなぜかは、誰も知らない。なぜならここは二次元で、この物語は真面目な話ではないからだ。というかアホな話だからだ。

「で、何だよいきなり。まあ旅行記のプロローグなんだから行先の話なんだろうけどさ。って言っても唐突すぎんだろ」

「いやまあ、実際そんなノリで行って来たんだよ。この旅行はさ」

 初っ端からメタ発言全開の2人である。くらうはもはやこれからの話を過去形で語ったりしているほどだ。

「せっかくの長期休暇だし、今ちょうどバイトもしてないじゃんか。ちゃんとした旅行はまだ1回しか行ってないしな。だから今のうちにどっか行きたい」

「それはいいけど、次はどこへ行くのさ」

「それなんだけど。全然考えてないんだよ。ていうか、あんまり日数に余裕がない」

 現在は9月。番外編で言っていたように、8月は毎週盆踊りの太鼓を叩くためずっと岡山を

 行き来していた。9月いっぱいまで休みはあるが、準備などを考えると半月強といった程度だろうか。豊富に時間があるとも言い難い。ギリギリに帰ってくるのも、不慮の状況に対応できなくなるのであまり望ましくない。そう考えると旅行に使えるのはせいぜい10日といったところだ。

「今からだったらあんまり長期の旅行は無理だし、数日で行けるくらいがいいな」

「って言ってももう四国一周しちゃったし、少なくとも四国は出ないと面白くないよね」

「九州一周?」

「1週間ちょいで行ける距離か? あたしもよく知らないけど、けっこー長いんじゃなかったっけ」

「中国地方一周も同じくらいあるかな」

「さあ、距離は知らないけど、あの辺山が多いんじゃないの? 坂ばっかりじゃ、いつも通りの距離は進めないと思うよ」

「それもそうか‥‥」

 坂ばかりと聞いて、愛媛の坂&坂を思い出さずにはいられない。わからない人は四国一周編を読んでみよう!(宣伝)

「それよりさ、本州に行くんだったらどういう経路で行くのさ」

「え、そりゃあフェリーで渡ってもいいけど、それよりは愛媛から――」

 そこまで言って、くらうははたと思いついた。

「そうだ。どっか行くっていうか、通過でもいいじゃん」

「ん? どーいうこと?」

 きょーこの問いにくらうはにんまりと笑いを返す。

「しまなみ海道だよ」

「あー、そういえば四国一周ン時になんか言ってたような気がするな」

 そう、愛媛・今治から広島は尾道へ伸びる海の道。あそこは自転車が通れる、というかしっかりと自転車道が確立されているらしいと聞いている。

 まず愛媛まで行って1泊。しまなみを渡って尾道で1泊。そして最後に岡山に向かってついでに帰省でもすれば2泊3日。1日くらい休んでフェリーで戻ってくれば全5日ほどの日程になる。日程的にもちょうどいいのではないだろうか。

「いいな。しまなみ海道はいいな。よし、じゃあしまなみ行こうか」

「おお、なんかえらい乗り気だな。で、いつ行くんだ」

「んー、そうだな。天気予報見る限り今週はずっと晴れみたいだし、あんまりのんびり準備してるほど余裕もないし‥‥」

 くらうはしばらく考え、

「明後日行こう」

「うおお、そんな急で大丈夫なのかよ」

「迷ってたって仕方ないしな。行こうと思った時に行かないと。道具はすでに揃ってるし」

「そんな準備で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない」

 ジャキィーン! と謎の効果音を立てながら、くらうは全力でフラグを建てた!

 そして今回ばかりは、これは本当にフラグだった。しかし残念なことに、この時のくらうはそれに気づくことはできなかった。

「というわけで、今回はしまなみ海道縦断が目的だー!」

「いよっしゃー!」

 なんだかんだできょーこも旅行自体には乗り気である。

「で、今回はちゃんとモアも連れて行ってやるんだろうな」

 そう、くらうの旅のお供はきょーこ1人ではない。もう1人‥‥1「人」といってどうかはわからないが(きょーこも本当は1個と言った方がいい気がするのだが、きょーこ本人が認めてくれない)、とにかくそのもう1人は今は棚の上で大人しく居座っている。今は、というかここしばらくその場で身じろぎひとつしていないような気がする。

 きょーこに負けず劣らず、いや、圧倒的に謎怪なその物体の名前はモアイヌ、通称モアである。

 見かけは名前の通り犬とモアイを足して2で割ったような姿をしている。体の半分を顔が占めており、その顔はモアイ像に犬の耳と口、そしてひげを付け足した感じ。残り半分はずんぐりむっくりとした身体。そしてその体色は自らの存在を激しく主張するかのごときオレンジ色。

 しかし当の本人はその体色に相反するかのように無口、とかいうよりむしろエクスデスもびっくりの無そのものである。声を発することはおろか、身動きをとることすら珍しい。水族館に展示すればきっと、某ダイオウグソクムシよりも人気になること請け合いである。

「当たり前だろ。前回(阿波踊り編)は実際にモアを連れて行ってなかったのと、短すぎたから登場させづらいという理由でやむなくお休みしてもらっただけだ」

「その割には空気みたいに存在消されてたな」

「普段から空気みたいなもんだろ」

「‥‥まあ、そうなんだけどさあ」

 無口無表情不動。3秒もあれば存在感を消せるという、某ステルスさんをも凌ぐ存在感の希薄さを発揮するモアが、なぜ旅のお供に選ばれたかというと、理由は単純。くらうがなんとなくヤツを気に入っているからだ。そもそも、くらうの行動にまともな理由などない。

「というわけで、今回はしまなみ海道縦断が目的だー!」

「いよっしゃー!」

「つまり目的は、しまなみ海道縦断だー!」

「大事なことなのでー!」

「2回言いましたー!」

 そんな感じでわけのわからない盛り上がりを見せる2人と、それを淡々と見つめるモアの3人旅が、今始まる!(壮大な雰囲気!)



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