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マスターへ

作者: 亜衣





「…ねぇ、マスター」


僕は、貴女という存在を亡くしてから、もうどれ程の時を過ごして来たのだろうか。

この地球は、その間にも進化が進んで、もう貴女の居た時の面影は消えてしまっているよ。



だけど、マスターがいるこの場所だけは変わらない。

僕は、貴女が居なくなってからもずっと此処に居る。


マスター、ただ貴女だけを想いながら。



『愛は、とても素晴らしい事だよ』



…ねぇ、マスター。

僕、ふと思う事があるんだ。


貴女は何故僕より先に朽ち逝くと知りながら。



「…僕に、愛という心をプログラミングしたの?」




その答えを、そろそろ教えてくれるよね?

僕も、もう「時」が止まるから。



「…ねぇ、マスター」


何故、貴女は







*****



「初めまして、貴方の名前はリオだ」

「……リオ」

「そう、初めまして。」



僕は、マスターに作られた超精密人型ロボットだ。

見た目も、何もかも人間と変わらない。


僕が作られた時代では、そんな技術を持っている人は居ないと言われていたが。


僕を作ったのは、僅か15歳の少女だった。



「マスター、僕は何をすれば良いのですか」

「…何もしないで良い、ただ私の傍に居て欲しい」



マスターは、僕に何を求めることもしなかった。

マスターが住む家は、都心から大分離れているらしく、近辺に家はない。

マスター曰く、「自転車」を使っても数十分掛かるという事だった。




マスターは、僕に何を命令するでもなく、ただ僕に「人間の心」を教えてくれた。



僕はロボットだから、全てマスターが作った通りにしか生きられない。

そんな僕に、マスターは「心」をプログラミングしてくれた。


楽しい、心。

悲しい、心。

嬉しい、心。

怒れる、心。

笑う、心。

涙を流す、心。

戸惑う、心。


色んな心を、僕に教えてくれた。

そして、何より「愛し愛される心」を教えてくれた。



「リオ、私は君に愛される喜びを教えてあげる。

だから、私にも愛されるという喜びを教えて欲しい」



マスターは、その才能故に異端児と言われ、親に捨てられたという。

気味悪がられ、誰にも愛されず。

そして、僕を作った。


だけど、愛という言葉はどの心よりも難しい。


「好き」と「愛」は違うとプログラミングされている。

では、その違いは何なのか。


正直、ロボットの僕には理解出来ない問題だ。











「リオ、今日は街に連れて行ってあげよう。

色んなものに触れて、そして色んな気持ちを知った方が良い」


ある日、マスターは僕にそんな事を言った。

だから僕は、こう答えたんだ。


「愛、という気持ちも知ることが出来る?」



…僕の質問に、マスターは僕よりも小さい手を僕の頭の上にそっと置き苦笑いを見せた。



「…その気持ちは、リオ自身にしか分からないんだ」


だから、答える事が出来ない。

そういって笑ったマスターに、僕は戸惑った。

僕を作ったのはマスターなのに、マスターにも分からないの?


本当に愛って、変なものだと思う。






そして、マスターが僕と一緒に「タクシー」に乗りやって来たのは「デパート」という所で。

「人」が沢山居て、とても驚いた。

でも、僕の様にロボットの「人」は誰も居ない。


みんな、生きてるんだ。

とても不思議な、気分。



「さぁ、リオ行こう」



マスターは、僕の手をそっと取り歩き出す。

そしてデパートに入るなり、感じる視線。

それは角度、モニターから見ても僕に向けられていて。



別に、見られてもどうって事ない。

だって、僕はロボットなんだから。


でも、僕は無意識にギュッとマスターの手を握り締めていた。

そんな僕に、マスターは驚いた顔をしながらフッと笑った。



「そんなに緊張しなくても大丈夫。

みんな、リオに見とれているだけだよ」



見とれている?

それが、「愛」?


何にも分からない僕だけど。

ただ、マスターと手を繋ぐと「心」が温まる事を、知った。



デパートで、マスターは僕の服や物を沢山買ってくれた。

「お金」は、色んな研究品で稼いでいると聞いた。


みんな僕を控えめに見ているけど、もう視線は気にならない。


だって、マスターと手を繋いでいるから。


僕より「年齢」が下なマスターに、ぐいぐいと手を引っ張られる僕は周りから見たらそんなに「可笑しい」ものなのだろうか?

どう思われたって、かまわない。

だって、僕にとってマスターは全てだから。



「マスター」

「なんだい、リオ」

「マスターは、僕と居て楽しい?」



僕がデパートの帰り、唐突に聞いた言葉にマスターは少しだけ目を見開いて僕を見た。

でもそれは一瞬の出来事で、マスターはとても「嬉しそう」な笑顔を僕に向けた。


「うん、私はリオといる時間がとても好きだよ」



その言葉を聴いて、僕は初めて心の底から作られて良かったと思ったんだ。

そして、僕を作ったのがマスターで本当に良かった。




僕はその時、確かに誰かを「愛する」心を知った。






それから、マスターと沢山の事をした。

部屋で他愛無い話をしたり。

「映画」を観に行ったり。

「海」へ行ったり。

「ご飯」を食べに行ったり。

「旅行」へ行ったり。



マスターは、僕に無償の愛を注いでくれていた。

僕も、ずっとマスターの傍に居る事で愛する事の意味を少しずつだけど知っていった。


一緒に居ればいるほど、マスターがとても大事になって。

でも、その気持ちに比例してマスターはどんどん年老いていく。




もう、マスターに作られて10年は経っただろうか。


マスターは、少女から美しい女性になっていた。






「マスター」




僕がそう呼べば、マスターは僕の方を見て笑ってくれる。


マスターの家である、この広い広い家にある、広い広い庭には大きな木が植えられている。

いつから植えられているのか分からないけど、本当に大きな木。

マスターは、その木の幹に寄り掛かって座っていた。

そして、駆け寄って来る僕に向かって手招きして、隣に座るように指示した。

素直に僕が隣に腰掛けると、マスターは満足気に微笑み僕の肩にそっと頭を乗せた。


そよ風が、僕等を暖かく包み込む。


僕が、一番好きな空間だ。



「リオ、良い事を教えてあげようか」

「何を教えてくれるの、マスター?」

「リオの名前は、ヘリオトロープから取ったんだ」


ヘリオトロープ。


長い茎の先にびっしりと赤紫色の花を咲かせる花。

開花の際にはバニラに似た甘い香りが漂う。


僕の頭には、そうプログラミングされている。




「ヘリオトロープの花言葉は…、愛よ永遠なれ」

「…マスターらしい、名前の付け方だね」

「君には、沢山の愛を知って欲しかったからね」



サラリ、マスターの長い綺麗な髪が風に揺れる。

マスターは、愛を凄く大切にしている。

本当に、素敵な人だと思う。




マスターを捨てた親を憎まず、不満を口に出すこともない。

僕が壊れた時は、一睡もせず直してくれる。

僕が悪い事をした時には心から怒り、そして最後には微笑んで頭を撫でてくれる。


マスターは、誰よりも愛される資格を持っている。

他の人達が、マスターを理解してくれないのがとても寂しかった。


本当に、マスターは可愛らしい人だから。



でも、マスター安心してね。

僕だけは、マスターを裏切らない。

僕は、誰よりもマスターの事を分かってるつもりなんだ。


だから、僕はずっとマスターの傍に居るよ。


だから、安心してね。




「…リオ、私は誰からも愛されてなかった」


僕の肩に頭を乗せながら、そっとマスターは呟いた。


「私は、親に捨てられずっと此処で独りだった。…悲しくて、悲しくて。

私は、君を作ってしまった。

でも、リオと一緒に居るようになってからは、本当に毎日が幸せだ。


リオ、ありがとう」




…ああ、マスター。

ロボットの僕にとって、マスターのその言葉程嬉しいものはないよ。

ロボットはね、マスター。

何よりも、マスターに「大事」と言ってもらえる事が喜びだと思うんだ。


だから、僕は幸せなんだ。

「大事」にしてもらって、「愛」も貰ってる。


こんなに、幸せで良いのかな?

マスター、僕はちゃんとマスターの事を愛せてるよ。


だから、だからずっと傍に居てね。








マスターと、初めて「キス」をしたのもその頃だった。



「っ、……」

「…マスター?」


僕とマスターは、僕が作られてからずっと一緒に寝ている。

僕は寝なくても良いけど、寝ているマスターの可愛いから一緒にベットに横にならせてもらっている。

そんなマスターが、僕の隣で寝ながら涙を流していた。



「……ママ…パパ……」



…マスターは、心の何処かで両親の事を引き摺っていた。

いつもは飄々としているけど、今の泣き顔はまるで僕が作られた時のマスターの表情と瓜二つだ。


誰かを、求めてやまない、そんな顔。


…ね、マスター。



マスター、僕が居るよ。

僕は、マスターの為に作られたんだ。

マスターの為なら、なんだってする。

だから、マスター。


もう悲しまなくても良いんだよ。



そんな想いを込めて、僕はマスターに口付けていた。

泣いてたら、慰めるというプログラミングが施されていたけど口付けをするなんていうプログラミングは施されていなかった。



…僕は、その時初めて自我を持ってしまった事に気がついてしまった。



「ん……リオ?」

「…マスター、大丈夫だよ」


僕の口付けで目を覚ましてしまったマスターに、もう一度口付けを落とした。

驚いたように目を見開いたマスターだったけど、次第に目を細め、そして瞳を閉じた。


…マスター、自我を持ってしまったって言ったらどうする?

廃棄、しちゃうのかな。

自我を持ってしまった事は、それほど重要な事ではない。

だって、自我を持っていなくても持っていても、僕がマスターの傍に居るのは絶対のことだから。

だから、マスターに「捨てられる」ことだけが怖いんだ。

ね、マスター。

折角マスターが、完璧に作ってくれたのに。


駄目なロボットで、ごめんね。










「リオ、この木も大分葉を付けてきたね」



…あの夜が過ぎてからも、マスターは何事も無かったかのように接してくれている。



「…う、ん。そうだね」



僕はというと、あの夜以来なんだかマスターと顔を合わせるのが怖かった。

だって、自我を持ったロボットなんで僕は知らない。

マスターが寝ている間に自分の体をパソコンと繋いで情報を読み込んでみたけど、そんな前例はない。

きっと、マスターは僕を恐れて廃棄するんだ。


…嫌だよ、マスター。

マスターと、離れたくない。


ずっと、一緒に居たいんだ。




「…リオ」



…そんな僕を見かねたのか、マスターは木から離れそっと僕の元へと歩み寄ってくれた。

そして俯く俺の手を取り、優しい声で聞いてくれる。



「…リオ、何かあるのなら話して欲しい。」

「………」

「嫌なら無理に言わなくても構わない。けど話してくれると、私は凄く嬉しい」



心の底からそう思っている、そんなマスターの音色に僕はゆっくりと口を開いた。


…マスターの言葉は、絶対だから。


だから、僕はそっと心に秘めていた思いをマスターにぶつけた。




「怖いんだ」

「怖い?」

「ごめんね、マスター。

完璧に作ってくれたのに、僕が駄目なばっかりに…。

自我を、持ってしまったんだ。ごめんなさい、マスター」




僕の言葉を遮ることも無く、ただ手を握って聞いてくれるマスターに、どんどん心の内が剥がれていく。




ああ、マスター。

どうか。




「…僕のこと、捨てないで……」






ロボットも、震えるんだね。

自分の事なのに、初めて知ったよ。




「……リオ、私は嬉しいよ」


「…え?」




思いもよらない言葉にそっと顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべるマスターの姿が。

その笑みのまま、そっと手を離し僕を抱きしめてくれた。




「…リオは、これから自分の意思で行動出来るんだ。

こんな素敵なロボットは見たことがないよ。

ありがとう、こんな素敵な感動を味合わせてくれて。

そして、これからもずっと傍に居て欲しい」



私が、朽ち果てるまで。






その言葉に、思わずマスターを強く抱きしめた。


嬉しい、そして悲しい。



「マスター…。マスターは、消えないよね?」

「……ごめんね、リオ」

「っ、マスターは死なないよね!?」



無茶苦茶言ってるって、分かってるんだ。

でも、マスターが死んだらどうしたら良いの?


僕は、生きていけないよ。

マスターがいない時を、過ごせるはずがない。


だって、僕にとってマスターは全てだから。





「…リオ、人はいつか朽ち逝くんだ」

「イヤだ、僕はロボットだからそんなの分からない」

「…リオ」



マスターの困った声も無視して、ただマスターを抱きしめた。


…ねぇ、マスター。

僕は、ロボットだから。


知ってたんだよ、マスターが僕に唯一隠していた秘密を。

知ってたけど、どうしても受け入れたくなくて。



僕は、逃げた。



マスターが、死ぬなんて考えたくないから。



だから、僕はその話から必死に逃げた。









…マスターは、僕を作ったその日からずっと沢山の薬を飲み続けている。


それは、僕の目を盗んで行われていたけど。

僕は、いつもマスターの事を見ているから。


だから、ずっと前から気づいていたんだ。


たまに、切なげに僕を見るマスターに。

もう、逃げ切れない事を、悟った。








---------



「っ、げほっ……!」

「…マスター?」



夜中、それは起こった。

突然、マスターが濁った堰をしたのだ。

それも、数回ではなく何度も苦しそうに。


僕はロボットだから、暗闇でも目が見える。

だから、僕はとなりで咳き込むマスターの背中を擦ろうとそっと手を差し出した。



「っ、ぶっ……!!」

「っ、マスター!?」



その瞬間、マスターの口から何かがあふれ出した。

それは、人にあって僕にはないもの。


血、だった。




「マスター!?」

「うっ…ごほっ…はっ…」



苦しそうに咳き込むマスターを見て、僕は記憶されている処置方を施す。

すると、マスターは少し良くなったのか枕元においてあるタオルで口の周りの血を拭い、僕を見て「お水を持ってきてくれると嬉しい」と頼んだ。


慌てて僕は水を汲みに行き、そしてマスターの元まで戻ったとき。



マスターは、あの薬を手に僕を待っていた。



「…マスター」

「ありがとう、リオ」



そっと水を差し出すと、弱弱しく微笑みマスターは水を受け取った。

そして、震える手で薬を飲み込み、水で流し込んだ。


空になったコップと、血で赤く染まったシーツを片し、再び部屋に戻るとマスターがソファに座っていた。



その瞳は、何か決意したような瞳だった。




「…リオ、座って」

「……」



僕は無言で、マスターの隣に座る。

マスターは、しばらく沈黙を貫いていたけど、やがてゆっくりと話し出した。



「…リオ、気づいていると思うけど、私は病気なんだ。」

「………」

「昔からずっと患っていた病気で、治ることは無い」

「…マス」

「もう、私は永くない」



僕の言葉を遮って、最後まで言い切ったマスター。



…もう、永くない。

それは、マスターとのお別れを意味していた。



「……マ、スター」

「…どうしたの、リオ?」



「…その時は、僕も連れて行ってくれるよね…?」



マスターと、共に。

永久に、一緒に。



僕の言葉を聞いたマスターは、悲しい笑みを浮かべ首を横に振った。


…それは拒絶の、意味。



「…っ、マスター!」

「リオは、私が死んでからも行き続ける。自我があるいま、君は自由になれるんだ。

色んな人と出会い、そして愛を育んでいく。それが、私の唯一の願いなんだ」


「…マスターは、ワガママだよ」

「…そうだ、私はワガママな女なんだ」


…涙が、零れた。


初めて、泣くという機能を使った。




「マスターなら、分かるよね?」

「………」

「僕は、マスターがいない世界なんていらないんだ。 僕はマスターが居る。それだけで…、それだけで良いんだ。だから、お願いだよマスター。僕も、一緒に連れて行って……っ?」


お願い、だよマスター。



「愛、してるんだ」

「っ、リオ…」

「だから、僕も一緒に…!」



僕の言葉に、マスターは目を細めて微笑んだ。

その瞳は潤んでいて、でも決して涙は流さず、ただ僕の頭を撫で続けた。




「ごめんね、リオ」



マスターは、僕を連れて行ってくれない。

これは、絶対覆らない事なんだ。



「…マスター……」

「…愛しいリオ、誰よりも幸せになって欲しい」




マスターとのキスは、愛しくて切ないキスだった。







-------------





マスターは、それから3年もの間、病気と闘った。

マスターが倒れる度、僕はまたマスターに哀願したくなる。


…僕を、独りにしないで、と。

だけど、僕はもう何も言わなかった。

ただ、今はマスターと一緒に居れるだけで幸せだった。




「…リオ、こっちに来て欲しい」

「どうしたの、マスター?」



マスターは、木の幹に寄り掛かりながら僕を手招きした。

本当に、マスターはこの木が好きだ。

マスターと過ごす大半は、この木の近くかも知れない。


僕は庭の葉を掃く手を止め、マスターの傍へと歩み寄り、マスターの横に腰掛けた。

マスターは、そんな僕に嬉しそうに寄り掛かった。



「リオ、愛してるよ」

「…僕もだよ、マスター」



未来永劫、何が起こっても。

僕は、マスターだけを愛してる。




「……私は、幸せものだった」

「……、マスター…」

「リオに出会えて、リオに愛されて」



…マスター、鼓動が小さくなっていくよ。

別れが、早すぎるよ。



ねぇ、ねぇ。


マスター、涙が溢れてくるよ。




「…リオ、ワガママな私を許して欲しい」

「許すよ、だからマスター」

「…愛してる、リオの事を何よりも愛してたよ」




マスターは、そういって微笑んだ。


僕はただ、マスターを強く抱きしめた。




「…リオ、ありがとう」



……そう言って、

マスターは穏やかに瞳を瞑った。







そして、永遠の眠りに就いてしまったのだ。










******


「ねぇ、マスター?」



あれから、もう幾年過ぎただろうか。

100を超えた辺りから、もう数えるのを止めてしまったよ。


僕は、綺麗なマスターをあの木の下に埋めた。

だから、僕は木から片時も離れない。


僕は、マスターの為に作られたロボットだから。

ずっと、ずっとマスターの傍に居るんだ。




「…僕は、ずっとマスターがどうして僕に愛を教えたのか分からなかったんだ」




確かに、マスターが教えてくれた「愛」は穏やかで、愛しくて。

何よりも、大切な思い出。


だけどね、マスター。


マスターは、僕を独りにすると知りながら。

どうして、愛を教えてくれたの?



僕は、苦しいんだ。

愛しくて、狂おしいほど愛してて。

苦しくて、胸が一杯なんだ。





こんな想いをするくらいなら、愛なんて知らなければ良かったって。

そんな事も思えるくらい、マスターの事を愛してるんだ。




「…でもね、マスター。

僕、本当はどうしてこんなにもマスターが僕に愛を教えてくれたのか、本当は分かってるんだ」



ごめんね、矛盾だらけのワガママロボットで。

でも、マスターも十分ワガママだったんだから。


僕の小さなワガママくらい、許して欲しい。




「でも、僕を残して先に逝ったんだから。

僕のこの小さなワガママな質問に、笑って答えて欲しい」




きっと、マスターがいう事は一つ。



『愛は、何よりも幸せになれるものなんだ』




マスター、僕頑張ったよね。

マスターが居なくなってから、ずっとマスターの傍に居たんだよ。

マスターの唯一の願い、叶えてあげれなくてごめんね。


でも、僕にとっての幸せは、マスターの傍に居ることなんだ。


だから、ずっと独りで頑張ったよ。



「ね、マスター。

僕、もうマスターの傍にいってもいい?」



マスターがいる土の上に、そっと横になる。


分かるんだ、もう僕の「時」も止まる。

だから、マスターが見つけやすいように。



マスターの、一番近くで眠るね。



マスター、眠るってどんな感じなんだろうね。

気持ちいいって言ってたから、きっと気持ち良いんだろうな。

そして、目が覚めたら一番マスターの笑顔を見るんだ。



「リオ、愛してるよ」



そう言って笑うマスターに、僕は微笑んでマスターを抱きしめるんだ。

そして、マスターと永遠の愛を誓うんだ。

僕の名前の由来、ヘリオトロープのように。




愛を、永遠に。



ねぇ、マスター。



愛してるよ。


















「リオ、愛してるよ」

















ほら、やっぱり会えたね。


















END




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