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恋の賞味期限

作者: 猫まるまり

「で、健とはどうなの?」

友達の直子に呼び出されてカフェに入ると開口一番、そういわれた。

「どうって、七年も同棲してればねぇ。マンネリよね」

直子が椅子を勧めながら憤る。

「同棲し始めたのって二十歳からでしょう?!結婚とか話題に出ないの?」

私は苦笑いをした。

「ほら、相手は健だから」

直子はむすっと黙り込んだ。

だけど私の心の中にはとげがしっかりと刺さっていた。


健は今でいうイケメンだ。

スッとした顔立ちに大きな目、サラサラの髪の毛で二人でデートしていると女の子か振り返る。

私は得意になってしまう。

どうだ、こんないい男をゲットしているんだぞと。

だけど、、、、。

直子と遊んで帰ってきたら台所には皿が積んであるし、部屋は埃だらけ。

健は短期のバイトを繰り返しいる。

私は正社員なのに、家事をもっとやってくれてもいいじゃない。

「おかえりー」

健が振り向きもせずいう。テレビに夢中だ。

「ただいま」

私はため息をついた。

これでは結婚なんか考えられないよね。


双方の両親には会って挨拶済みである。

今日も健の実家にやってきた。

健が母親と話している隙に健の元部屋へのぞきにいく。

古いテープや元カノからのラブレターなどを押収した。

ふと奥のほうにアルバムを見つける。

成長日記と書いてあるから健の今までの写真だろう。

わくわくしながら開いた。

しかしそこには私の知らない男の子がいた。

その男の子は不細工で、世をすねた顔をしていて、いわゆる悪い顔だった。

しかしページをめくるとともに健へと近づいていく。

鼻が変わった。目が変わった。輪郭が変わった。口元が変わった。

これで健の出来上がりだ。

日付を見ると私が付き合っていた頃も変化していた頃にあたっている。

「整形、していたんだ、、、、」

そういえばよく包帯を巻いていた。殴られたとか言っていたっけ。

なんで整形したんだろうと疑問がわく。

単純な私はすぐにピンときた。

浮気をするためじゃないか。

「健!!」

「何」

アルバムをそっと隠した。

「浮気してない?」

「してないよ。なんでそんなこと急にいうんだよ」

「ほんとにほんとに本当に?」

「うるさいなぁ。晩飯だぞ」

はぐらかされた。

これは怪しい。

私は秘密裏に調査を開始することにした。


健はスマホをは持ち歩かない。

ローテーブルに置きっぱなしである。

風呂場に行った隙にアドレスを開いてみた。

女子の名前もあるが、友達だということもしっている人達ばかりだ。

ラインを覗いた。

男どもがわさわさ話している。

おかしい。私のカンが外れたというのか。

直子に連絡した。

事の顛末を語ると直子はふふんと笑った。

「やっぱりね。健はモテるからそういうことになるだろうと思ってた。今日、これから出てきなさい」

「ええ?!」

「場所はメールで送るわ」

まだ夕方である。

私はあわてて化粧を始めた。


「彼が信じられないんだね」

甘い声で囁くのは義人君。今日、直子に教えられた合コンで知り合った人だ。

甘いマスクと低い声でこちらまでとろけそうだ。

「うん」

さぞやプレイボーイなんだろうなぁと思っていると、義人君がにっこり笑った。

「じゃぁ僕に乗り換えればいい」

こんなこと平気で言える男はなかなかいない。

少しだけ心がなびいているのを察知したように義人君がライン交換を言い出した。

私は喜んでお願いした。

その夜はドキドキが止まらなくて少し遠回りをして帰宅した。

健に顔を見られるのが恥ずかしかったのかもしれない。


「おかえり」

ドアをあけたら健がいて、罪悪感でいっぱいになった。

「よかったよ。急にでかけるからさ」

健がキッチンへ戻りながらいう。

「鍋作るつもりだったから」

こたつの上にはほかほかの鍋があった。

出来上がったばかりのようだ。

具はエビ、カニ、ホタテ、と海産物がふんだんに使われている。

「懸賞に当たったんだよね。早く着替えて食べよ」

そして冷蔵庫を指差した。

「ビール、あるし」

私は涙が出そうなほど感動していた。

ご飯作ってくれたんだ、、、、。

「食べよ、食べよ!!」

思わず抱きついた。

それでも健の顔は見られなかった。涙が止まらなかったから。


義人君とはラインで何回かやり取りをして自然消滅してしまった。

惜しいことをしたなとも、少しだけ思う。

健は相変わらず浮気の気配はない。

私はこの頃健の顔をよく見る。

全然人工の顔に見えない。

表情だって自然だし、誰かに言っても信じないだろう。

アルバムは今、私の手元にある。

いつ返そうか、迷っている。

健のお母さんも自然に振る舞っていたし。

「よし」

私は健の実家に一人で行くことにした。

電話をして、お母さんに健のことで話があるという。

なぜ整形したかを調べるのだ。


健の実家は大きな家で、お母さんは一人で待っていた。

紅茶をごちそうになる。

「健のことで話があるそうね?」

「あの、健さん、整形していますよね」

おかあさんはうつむいた。

なぜ気づかなかったのだろう。

この親子が全く似ていないことに。

おかあさんは蚊の鳴くような声で言う。

「とうとう気づかれたのね、そうよね」

ため息をつく。

私はあわてて笑顔を作った。

「でも健さんを好きなのは変わらないですし。なんで整形したのかなって」

おかあさんは決して美人ではない。

かといってひどい不細工でもない。

お父さんと同じく普通だと思う。

おかあさんは言った。

「あの子は決してあなたのことが好きじゃないというわけじゃないのよ」

息をつき、いう。

「でも自分をきれいに見せたいっていうのが強い子なの」

「それが整形に?」

「一つの手段でしょうね」

私は知っている。

何年も前から私の化粧水を健が勝手に使っていることを。

紫外線を嫌っていることを。

健康に気を付けたバランスのいい食事しかとらないことを。

そうか、美を追い求めているのか。

私は頭を下げた。

「ありがとうございました」

「いえ、心配事があったらなんでも言ってね」

おかあさんは悲しそうに笑った。

私は家を後にした。


帰りにドラッグストアに寄って、妊娠検査薬を買ってみた。

さっそく使ってみる。

マイナスだ。

やっぱりなと思いつつ、健の前に座り込んだ。

思い切り甘えた声で言ってみる。

「ねぇ、健。子供ができたらどうする?」

産んでくれというとばかり思っていた。

健の顔が青ざめる。

「おろせ!!絶対におろせ!!俺の遺伝子を残すな!!」

わめくように言うと泣き出した。

しかし私の両肩をつかんだ手は離さない。

うんと言うまで離さないのだろう。

これは本音だ。

冗談でしたでは済まされない。

私は震えながらひきつった顔でうなずいた。

「う、うん。わかった。健の子供は産まない」

手が離れて、健はおいおいと泣き崩れた。

7年一緒に暮らしても私は健のことを何もわかっていなかったようだ。


私はアルバムを小脇に抱えて健の実家へ急いだ。

チャイムを押したらおかあさんが出てきて驚いていた。

「どうしたの」

「あの、ちょっと健さんの部屋に用事があって」

「どうぞ」

いそいでアルバムのあった場所にしまう。

そしておかあさんに言った。

「もしかしたら一生会えないかもです」

「、、、、、わかっていたわ」

「今までありがとうございました」

「あなたは悪くないから」

さみしそうに涙をぬぐって手を振った。


私はそれから部屋を引っ越した。

恋の賞味期限は静かな花火のように気づかれずに終わるのがちょうどいい。

絶対に行き先が健に知られないよう、用心深く私は逃げ出した。

整形をしている人間が全部そうとは言えば行けれど、健に関して言えば、健は自分を消そうとしている。

それはともさず自分を憎むということだ。

浮気なんかしているわけがない。

自分さえ愛せないのだから。

そんな男は私はいらない。

私はハッピーな男を捕えに行く。

今からだって遅くはない。

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