05 荒海
アンソニーは南の港町にたどり着いた。
汽車ではそれ以上南に行くことができなかったがそれでも彼は南を目指した。
アンソニーは南の大陸に向かう商船の乗組員に志願した。
荒波が船を襲い、嵐が朝日をさえぎる。
船員たちは絶望と希望の狭間を勇敢に乗り切り、異国の港町にたどり着いた。
アンソニーは見知らぬ異国の町を歩く。
長年、船乗りをする男の進める娼婦宿にアンソニーと男達は入っていく。
この国でも男達は戦場で死に、餓えた子供達は路上にたむろし、
女達は娼婦に身をやつし、かろうじて生きていた。
アンソニーはその娼婦宿で何日か滞在した。
なぜか、毎晩、抱く女は皆、アンソニーにはマリーに見えた。
やがて、金が尽きたアンソニーはさらに南に向かう商船の乗組員に再び志願し、
その港町をあとにした。
船は遥か遥か南へと向かい、それ以上、南に陸地がなくなると、船は東に向かいだした。
船の中で伝染病が流行りだし、何人も船員が死んでいき、皆が生気を失いだした頃、
船はやがて港にたどり着いた。
その褐色の肌の人々が暮らす港町は平和で、豊かだった。
さらに東に向かう船は無く、止むをえずにアンソニーは来た道を戻る船にのった。
航海は続く。
彼はいくつもの海を渡り、生死を乗り越え、海を渡り続けた。
・・・2年後・・・
アンソニーはふるさとの村へ、クロエを伴い帰ってきた。