03 帰還
ガチャ
「んだぁ〜!気づいたのかエ その人?」」
アンソニーが自分の名前を名乗ったと同時に部屋の扉が開き、熊のように大きな男が入ってきた。
「姉さんきづいたんだか?その人?」
「ええ ついさっき・・・これがさっきいっていた弟のカッシーニーです。」
クロエはその熊のような大男が自分の弟だと、アンソニーに説明し弟のカッシーニーを紹介した。
春が過ぎ、夏が過ぎ、アンソニーの傷が癒える頃、彼は長い間、看病をしてくれたクロエとカッシニーにお礼に少しばかりの金貨を渡し、別れを告げ、急ぎ、ふるさとの村へと急いだ。
マリーとジャンじいさんになんども手紙を出したのに返事は無かった。それがずっと気がかりだった。
西へ西へ、歩く。生まれた村へ、ジャンじいさんの小麦畑がある村へ、幼馴染のマリーが待つ村へ・・・。
しかし、アンソニーが村へ帰ると、ジャン爺さんもマリーも彼の隣の家にはもう、いなかった。
二人が暮らす、古い石造りの家は何も残っておらず、アンソニーは唖然とした。
アンソニーを古くから知る近所の住人はアンソニーを見つけると嬉しそうに走りよってきた。
「あんた、いきていたのかい?! 」
彼女はレンガ屋のおかみさんで、情が熱くて人好きのする人だった。彼女はジャンじいさんとマリーのことをアンソニーに教えてくれた。
アンソニーが戦場へ行って、1年して、アンソニーの戦死報告が村の郵便屋に届いた。それからすぐに、ジャンじいさんは完全に目が見えなくしまい。マリーは一人で農場をきりもりしていたが、村長の息子のピエールに求婚され、農場の借金やジャンじいさんのこともあって、マリーはピエールと結婚したということ。いまはピエールの暮らす、村で一番大きな屋敷にジャン爺さんと一緒に住んでいるということ。
その夜は村の収穫祭であり、皆が歌い、てをつなぎ輪になり踊り、男達は、酒を飲みたいだけ飲んだ。アンソニーは一人、振る舞われる酒を村の広場の一番、はしに座り、一気に飲み干していた。
「アンソニー かえってきたんだってな!」
彼のまえには昔の幼馴染達が集まりだし、やがてピエールとマリーもそこへ現れた。
「アンソニーよかった無事で!ガキのときからの友が大勢戦場へいっちまってお前までなくしたらおれは本当にやるせないよ。そうだ、俺達、結婚したんだ。おまえには早く知らせたかったんだが・・・。なあマリー」
マリーはなにも声に出さずにうなずくと、ほんの少し悲しそうな顔でアンソニーをみた。
ずっとずっとむかし、アンソニーもピエールも少年だったころ。村に流れる川で4、5人の少年達は水遊びしていた。オレンジ色の夕日が川も、空も、少年達も染めた頃、ずっと向こうから麦畑のあいだの細い道をぬけ馬車がやってきた。ジャンじいさんは石造りの家からでて、その馬車を向かえ、幌のなかから、オレンジに髪が光る天使のような少女の手を引いて降りると、馬車の紳士に手を振った。少しの間、少年たちは皆、その天使のような少女に見とれていた。
マリーはジャンじいさんの本当の孫ではなかった。
ジャンじいさんには若い頃、娘がいたがその娘は17歳になったばかりで病気で死んでしまった。ずっとずっと昔に・・・。ジャン爺さんは戦災孤児のマリーを自分の娘のように育てていた。