表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

01 塹壕の空

アンソニーは真っ黒な空を見上げ倒れていた。辺りには仲間達の亡骸が転がり、砕け散った、身体、腕、内臓が泥と共に塹壕ざんごうを沼のようにしていた。


ちょうど一年前、


アンソニーは仕官学校を卒業後、軍人になる道を捨て、ふるさとの小さな農村にかえってきていた。

アンソニーに家族はいなかったが、彼を父親代わりに育てた、隣にすむ、ジャンじいさんはアンソニーが帰ってくると喜び、その孫娘のマリーも、幼馴染が帰ってくることを心から喜んだ。ずっとまえから、マリーはひそかにアンソニーに恋していた。


村に帰ってくるとすぐに、アンソニーは年老いたジャンじいさんの農場の仕事を手伝いだした。

ジャンじいさんは年のせいか、だんだんと、ここのところ目が見えづらくなっていた。

ジャンじいさんは黄金色に輝く小麦畑の中で、鎌をゆっくりと振るい、麦を刈りながら、村に伝わる古い民謡をしわがれた声で歌いだした。

遠く遠くかなたには青い山脈が見え、空はどこまでも澄み渡り、鳥の囀るこえがこだまする。

遥か東の地では、終わることの無い、長い戦争が始まっているとは思えないほど、平和な光景だった。

しかし、やがて、戦況は激化し、アンソニーが暮らす、この小さな村の若者たちも徴兵ちょうへいされ始めた。


アンソニーにマリーは真っ白な手袋を渡す。

「あなたが帰ってくるのを待っているわ。」

汽車が汽笛を上げる。物悲しく、勇ましく、戦地に行く男達はみな家族に手を振り、子供の頭を撫で、女たちの中には涙を流すものもいた。

真っ白な光景、雪が降っているわけではないが、真っ白な光景。ただ朝早いというだけだが、なぜか青さよりも白い光景。

アンソニーとマリーはくちづけを交わす。

生まれて初めて、マリーからの・・・・。

無常にも汽車はゆっくりと、走り出す。

・・・結ばれぬことが運命だとすれば?いや、俺はかえってくる。

アンソニーは自答する。


加速を増していく、汽車は東に向かう。たった数ヶ月で人が人で無くなる場所へ・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ