もう少し時間をくれ
ここまでの展開は一段落。
少し会場が静かになったところで、俺と先輩はロックアップした。
体格も力もこちらのほうが少し上だ。
じりじり押し込んでいく。
しかしふっと抵抗する力が抜けたと思った次の瞬間、俺の体は前方に投げ出された。
綺麗に巻き込まれて俺の体は一回転して、派手に尻餅を搗いてしまった。
タイミング抜群の巻き投げ。
押し込んでいた力をそのまま利用されて投げ飛ばされてしまった。
すぐに立ち上がろうとしたが、背後を取られスリーパー・ホールドで動きを封じられる。
成す術がない。
ロープはどっちだ。
ケビンはまだ動けそうにないし、暫くの間一人で何とか凌がないといけない。
大きな動きで技を解きに行くよりも、ロープブレイクで離してもらう方が省エネだ。
しかし敵はそれほど甘くなかった。
技をかけたままリング中央へ引き戻される。
もう例の作戦しかない。
レフェリーの目を盗んで、俺は自ら思い切り顎を突き出し、先輩の腕を喉に食い込ませる。
白目をむき、涎を流して反則のアピール。
気がついたレフェリーは慌ててブレイクを命じる。
抗議をしながらも、先輩はしぶしぶ技を解いてくれた。
少し息が上がった俺は一先ず自軍のコーナーに戻る。
ケビンはまだ戦える状態ではないが、敵もここまでは追ってこない。
リング中央に出て来いと、こちらに向かって怒鳴っている。
レフェリーもファイトするよう催促してくる。
分かってるけどもう少し時間をくれ。
本当に首を絞められた者の身にもなってくれ。