サヨナラ
リングの中央でこちらを睨みつけている恐怖の大王から逃れようと、俺たちは再びエプロンから飛び降りた。
ビビッていると思われたくないから「お前が行け」とは言わないが、内心行ってくれたら嬉しいのは間違いない。
タトゥーがレフェリーの前に立ち何か話している。
小柄なレフェリーはこれ以上は無理だというくらい頭を後ろに傾け、奴を見上げてその話を聞いている。
誰か判断を委ねられる者がいないか探すように左右を交互に見回しながらこちらに進んでくる。
そして両手で俺達をそれぞれ指差し、カウントを始めやがった。
ジタバタ悪あがきをする俺達の横を、担架に載せられた筋肉の塊が通る。
ケビンが満面に嫌味ったらしい笑みを浮かべて、サヨナラのポーズ。
それがいけなかった。
横に付き添っていた若いマッチョがケビンに向かって突進し、リングに投げ入れた。
そしてサヨナラのポーズでバックステージに消えた。
暫く場外を見ていたケビンが、レフェリーに促され振り向く。
背後で仁王立ちしていたタトゥーが間髪いれずに鳩尾に蹴りを入れる。
前のめりに崩れ落ちるケビン。
俺はまだ場外でその様子を見守っていた。
ケビンが敵コーナーに拉致された。
ようやく俺はエプロンに上がりタッチロープを握る。