孤独なマッチョマン
まだリングインを渋り続けている男に向かって赤鬼が動いた。
大またに対戦相手のいるコーナーに向かうと、パートナーの若い方にアッパーカット。
相棒をリング下に叩き落した後、ベテランの首根っこを掴んでリング内に投げ入れる。
コーナーに押し付けられ身動き出来ないベテランマッチョは、パンチのコンビネーションに翻弄される。
敵がぐったりしたところで赤鬼は少し間を置く。
フラフラのマッチョが一歩踏み出すのを見逃さず、その筋肉の塊を小脇に抱えてリング中央まで運び、サイドウォークスラム。
そのままカバーにいく。
カウント二つでなんとか返したマッチョ。
赤鬼は引きずり起こしてロープに振る。
帰ってきたところにカウンターのビッグブート。
今度はカバーに行かずに、距離を置いて様子を窺う。
右手が上がり、その指がメデューサ髪のように蠢いている。
立ち上がるのを待ってフィニッシュにいくサインだ。
しかしベテランマッチョも百戦錬磨。
かろうじて起き上がったかのように見せかけて、近づく赤鬼にパンチを放った。
しかし力の無いそのパンチは赤鬼を止めることが出来なかった。
歪んだ口元に薄い笑みを浮かべ四方を見回した後、腰の引けたマッチョをロープに振ると見せかけて、俺達のコーナーマットに叩きつけた。
マッチョの背中がコーナーマットにぶつかる寸前、俺たちは慌ててエプロンから飛び降りる。
そう、今度は誰ともタッチ出来ない。