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タッチ成立

 俺は一昔前のベテランレスラーの様に、時間をかけて観客を焦らしながら奴のいるコーナーに向かう。

そこにはさっきまで俺とケビンに痛めつけられ、リングに背を向けエプロンにへたり込んでいるベテランマッチョの背中がある。


 背後から呼びかけるようにその肩をポンポンと叩く。

タッチ成立だ。


 振り返った男の目に映ったのは、薄ら笑いを浮かべる忍者。

その背後に無慈悲な眼光で小首をかしげて様子を窺っている巨大な赤鬼。


 自分の身に降りかかった出来事を、ようやく理解したベテランマッチョの目が何ミリか落ち窪んだ。

首を左右に振り悪夢を振り払おうとしている。

そんなことをしても現実からは逃れられない。

懇願するようにレフェリーに目をやるが、視線を合わせることも無くリングインを命じられている。

その様子から目を離さずに、俺はにこやかな表情を崩さぬままムーンウォークで自軍のコーナーに戻る。

 

 流石はベテラン。良い役者っぷりだ。

会場が沸いている。いい感じだぞ。

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