レスラーウォーク
そりゃあもう戸惑います。でもまあ仕方ない。
暫く距離を置いてお互いどうするか考える。
アイコンタクトの後俺とケビンはいつものスパーリングの要領でロックアップした。
この時点でお互いに何も良いアイデアが浮かんでいないことを共通認識する。
暫く押したり引いたりしているうちに、俺は閃いたんだ。
腕に力を込め体重をかけながら、ケビンの耳元で「タッチして来い」と呟いた。
そして後方へ押し込み、突き放した。
不意をつかれ、腰砕けになったケビンはよろよろ後方のコーナーにもたれ込む。
そこは、まだ試合に参加していない怪奇派コンビのコーナーだ。
コーナーに背中が当たった反動で、ケビンの腕が赤鬼の胸にタッチした。
振り向き様に赤鬼と目の合ったケビンは、自分のやったことに気がついた。
凄まじくキレのある動きを見せて、自軍のコーナーに戻る。
まさに這々の体ってやつだ。
赤鬼の巨体がゆっくりとトップロープを跨ぎ始める。
俺は奴のリングインを目で追いながら、臨戦態勢でリング中央に陣取る。
「かかってきなさい」ってやつだ。
しかし赤鬼のリングインが完了すると、俺は奴に背を向ける。
そして、少し腰を屈めレスラーウォーク。
ご丁寧にステップに合わせて交互に腕を突き出し指を鳴らしながら進む。
向かうのは奴のいるコーナー。