序盤戦
筋肉野郎は少し戸惑いを見せた後、ムッとした表情で俺を指差し何か言いながらリングに入った。
デフォルメし過ぎの漫画のような筋肉と直線的なファイトで一気にトップに上がってきた選手だ。
最近ではベテランマッチョとのタッグでインサイドワークも身に着けつつある。
一方黒人アスリートはチームメイトの白人アスリートとタッチ。
こちらは天才肌の相棒とは対照的に研究熱心さと地道な努力で力をつけてきたタイプ。
それだけに引き出しも多く、いろんなスタイルのプロレスをこなせる選手だ。
力と技の対戦は先発の俺達の動き回る忙しい展開のプロレスとは一味違うテイストでリング上を彩っていく。
細かい技をつないで攻め込むアスリートの攻撃を強引にパワーで弾き返すマッチョ。
力で押し込まれるのをすんでのところでかわしたアスリートが、ダイビングしてケビンにタッチした。
ケビンがリングイン、戦いたくてウズウズしていたのは隣にいた俺が一番よく分かってる。
それを後押しするかのような歓声が会場の一部から盛大に起こった。
やたらと野太い声援に混じってブブゼラの音まで聞こえてくる。
マックス達爆音軍団の連中だ。
お調子者をお調子者が炊きつけてやがる。
喧しい方向に一瞥をくれると、やれやれという感じで若いマッチョはベテランマッチョにタッチした。
衰えることなくパンパンに張った筋肉の持ち主だが、頭の方はかなり柔らかく、試合の流れをコントロール出来る選手だ。
会場の空気に合わせて、観客を煽ったり試合の流れに抑揚を付けるスキルが素晴らしい。
調子に乗ったケビンをあしらうのに、こんなに適した相手は無いだろう。
一直線に向かってきたケビンをがっちり受け止めロックアップ。
アドレナリン全開のケビンはそれでも引かずにパワーファイターを押し込んでいく。