お返し
がっちりした体格のベテランレスラーがゆっくりとこちらに向かってくる。
少し間合いは遠いが思い切って踏み切り、飛び後ろ回し蹴りを放った。
自分より背の低い相手に使う業じゃないのは承知の上だ。
もとより当てるつもりも無い。
ふと、ロックアップする前に何かした方が良いような気がしたんだ。
体が自然に動いた。
着地するタイミングを機に、一気に間合いは無くなり互いの首を取りロックアップした。
予想以上の圧力で押し込んできやがる。
上背ではこちらが有利だが、向こうに利のある体重を無駄なく乗せてくる。
腕力だけに頼らず全身を上手く使って押し込んでくる。
プロのロックアップってものを教えられているかのようだ。
まあ、まさにそんなシチュエーションなのだが。
勝ち負けに拘るなら打撃で攻め込めば、何とかなりそうな気がしないでもない。
しかしここはじっくりと、相手から何かを吸収すべき時のようだ。
力を込めて押し返してみる。
しかし根が生えていやがるかのように動きやしない。
それどころか低重心で押し戻される。
コーナーまで押し込まれて身動きが取れない。
レフェリーはいないからブレイクは無いから、次の手は自分で見出さなければならない。
ロックを外し両肩をポンと押されてクリーンブレイク。
かと思った次の瞬間、張り手が飛んできた。
一発貰ったが、向こうが余裕かましてるから、こちらも一発お返ししてみる。
俺の張り手が当たるとにやりと口元にだけ笑みを浮かべ、少し間をおいて急にスイッチが入ったかのように殴りかかってきた。
首根っこを押さえ込まれ、背中にガンガン打撃が落ちてくる。
このまま5分が過ぎたんじゃ実に生るものが無さ過ぎる。
背筋を伸ばして振りほどき正面から見据えて袈裟切りチョップ。
動きが止まったところに踵落とし。
脳天に突き刺さったぞ。