人事部長
ガソリン補給を終えた俺達は、まだ補給の列が続く爆音軍団から逃れるように、いつもより速いペースで走った。
プロレス会場に到着する前にジョンの店で知り合ったロードエージェントの二人が乗ったポンコツを追い抜く勢いだった。
思っていたよりもかなり早く到着した俺達は、開門の時間になるまで会場の周りをうろつくことになる。
Tシャツだの何だの買って、盛り上がっているところに禿と白髪の二人組が到着した。
俺達に気がついた太い方のエージェントが声をかけてきた。
さっさと仕事しに会場に入れよ。
会場前で素人の俺達相手にフラフラしてんじゃねえ。
また何かおかしな展開になっちまう。
この段階でまた、もう一組の俺達と奴が接触するのは良くない予感がする。
奴らもすでに到着してその辺にいるはずなんだよ。
俺とケビンはともかくもう一組のデビッドとケリーやエディとルークまでスカウトされちまうぞ。
しかしなんとなく憎めない笑みを浮かべながらも、有無を言わさぬ眼光で手招きされると無意識に足がそっちに向いてしまう。
なんでもトライアウトの担当を紹介してくれるらしい。
ついていくとやけに背の高い紳士に紹介された。
高給取りらしく値の張りそうなスーツに身を包んでいる。
少し話した後、ロードエージェントの親父は忙しそうに姿を消した。
日本風にいうと人事部長のような男は、話してみるとかなり砕けた親父だった。
酒で焼けたのかひどいダミ声だが気さくに話してくる。
本来なら来月フロリダまで来てもらいたいところだが、明日時間が取れないかときた。
スポーツ暦だの何だのいろいろ聞いてくるところを見ると、一時審査を通過しちまったようだ。