白黒の夢
対角のコーナーに俺より二回りくらい小さいおっさんがいる。このおっさんとこれから試合をするようだ。腹はポコッと出てるが体はたるんでいない。間違いなくしっかり鍛えたレスラーだ。
ニュートラルコーナーにはレフェリーがいる。どう見ても爺さんとしか言いようがない。動きがやたらゆったりしているが大丈夫なんだろうか?俺の知っているプロレスのレフェリーってのは、フットワークと体のキレは選手以上で、試合の流れを妨げないもんだったはずなんだが。
日系人なのか中国人なのかよく分からないとぼけた雰囲気の爺さんだが、チラッと合った眼がかなり怖くて只者ではなさそうだ。
その爺さんの合図でゴングが鳴って試合が始まった。
まずはロックアップ、お互いどの程度の力があるのか小手調べだ。
このおっさん腕力はそこそこだけど下半身がかなり安定してる。力だけならかなりこちらにアドバンテージがありそうだ。少し力比べをした後でロープに振ってみた。
わりときびきびした動きで戻ってショルダータックルにきた。これは十分持ち堪えられる衝撃。
効いてないのが観客にも分かるように、胸についた埃を掃う仕草をしようとした瞬間景色が流れた。
切れ味抜群の巻き投げだった。余計な動作がまったく無いから見事に投げられてしまった。
そのままアームロックで締め上げられたが、じわじわ移動してロープブレイク。
選手二人ともキビキビ動けているはずなのに、試合の流れはもっさりしている。
どうもこの展開は気に食わないが、どうやら試合のリズムはレフェリーの爺さんが仕切ってるようだ。
ヘッドロックからグランドに持ち込んでチンロック。首を捻ってやったらこのおっさん、なんと自分から俺の腕に自分の喉を滑り込ませてレフェリーにチョークだとアピールしやがる。気を取り直してもう一度締め上げても同じ技(?)で抜け出された。
それならこっちにはこの手があると首四の字で締め上げてやったら、体を回してうつ伏せになりやがった。足四の字じゃないから裏返されても俺は痛くないぞ。
と、思ってたらあっさりタップしたんで放してやった。そしたら何事も無かったかのように攻め込んでくる。
レフェリーに見えないところでタップしやがったようだ。
テクニックよりインサイドワークの達者なおっさんでかなりやりにくい。
もっさり試合してたら尻餅をついた状態で背後を取られ、首の後ろに腰掛ける要領で固定されて右の足首掴んで引き上げられた。滅茶苦茶痛い。実況席でアナウンサーが足取り首固めと絶叫してる。
しかしここで俺の学習能力が火を噴いた。レフェリーが見てないところでタップ作戦である。何とか逃れることが出来た。
ここから反撃開始だ。ラリアットで吹っ飛ばして流れを引き戻す予定がおっさん場外に飛び出しやがった。追いかけて連れ戻すつもりが揉み合いになった。コーナーポストに叩きつけてやったら自分から頭ぶつけて流血してやがる。
リングに戻るとハァハァ肩で息しながら向かってくるので、カウンターのビッグブート。
いよいよフィニッシュだ。まずはブレーンバスターにいくつもりだったのに、なぜかジャイアントスイングしてる。そしてロープに飛んでボディプレス。俺こんな技使ったこと無いぞ。
不思議な力に操られていたような気がするけれど、それでも何とか試合には勝てたから結果オーライだ。
堂々と勝ち名乗りをしてリングを降りようとしたら1本目は俺の勝ちって・・・
3本勝負なのか?しかも45分の?