ヒールサイド
今夜の俺は忍者の出で立ちだ。
好んでしている格好でもないが、見慣れないリングや対戦相手が出てくるよりは気が休まる。
自らのコーナーを数歩前に出て相手を睨む。
目の前に黒人のレスラーが立っている。
敵のコーナーには奴のパートナーの他に赤鬼とタトゥーがいる。
俺の後ろにはケビンだけじゃなく、筋肉の塊が二人立っている。
次の日曜は月に一度の特番だ。
今日はその対決を煽るマッチメークが組まれたということか。
シングルマッチではないので、ロックアップすることもなくお互いロープに走る。
敵は一番動ける奴を先発させたようだ。
こちらも俺が一番動けるってことか。
負けてはいられないが、スピードは向こうが上だ。
しかし瞬発力なら俺に分がある。
交錯する瞬間にクロスライン。
ダウンを奪うがすぐ立ち上がってくる。
それならばとドロップキック。
しかし敵も然る者、エプロンにエスケープしたかと思いきや、スワンダイブのニールキックが降って来た。
楽しいねえ。
力量に差の無い奴とガンガンやるのはレスラー冥利に尽きる。
一通り動いて見せた後、ケビンにタッチした。
向こうも相棒と交代だ。
ロックアップからオーソドックスなレスリングの流れを披露している。
暫く首や腕の取り合いの展開があった後、レフェリーのブラインドを突いてケビンがサミング。
と言うことはこちらの四人がヒールサイドなんだ。
そこから敵軍で一番攻略しやすそうなケビンの対戦相手を自軍コーナーに引きずりこんで一頻りいたぶる事になる。
助けにリングインしようとするパートナーや赤鬼はレフェリーがインターセプトしてくれる。
徐々に盛り上がってくる。
金髪筋肉と黒髪筋肉のサンドイッチ攻撃をかわした男が自軍に転がり込みざま赤鬼にタッチ。
勢いよくリングインした赤鬼は二人の筋肉男をクロスラインで吹っ飛ばす。
俺とケビンも吸い込まれるようにリングに入って、やはりクロスライン被弾。
リング上では赤鬼が仁王立ちで見得を切る。
場内大声援だ。
場外では対戦権のある金髪筋肉がタトゥーに捕まり、強制的にリングに戻される。
攻守交替ここから暫く敵陣での試合が続く。
黒人アスリートの空中殺法をすんでのところでかわした金髪が這う這うの体で戻ってきた。
ケビンが勢いよく出て行ったが、向こうは真打登場。
タッチを受けたタトゥーが入ってきた。
そろそろ試合の決まる時間帯が近づいている。
特番前の対戦だ。ここで負けた方が本番で勝つ法則。
一気に終焉を迎える試合展開に場内はかなりのヒートアップだ。