フッカー
蹴りで尻餅をついた対戦相手を見て間合いを詰めようとしたら、下から激しく突き上げられた。
ヨーロピアンアッパーと言う奴だ。
今度は俺が後ずさる。
打撃をまともに喰らってスイッチが入ってしまったようだ。
顔色も目つきも変わっている。
今まで感じた余裕の部分を削ぎ落として完全な戦闘モードに入りやがった。
どうやらかなり頭に血が上りやすい男だったようだ。
投げ技でスタミナを削られて、グランドで関節極められたらヤバいと感じていたが、興奮して打撃戦に来るならこちらにもチャンスは十分ありそうだ。
相当高いスキルの持ち主だし観客の声援からして実績もある選手のようだが、相手の型で捕まりさえしなければ怖くない。
しかし油断をした訳ではないが次の蹴りを捕らえられ、そのままキャプチュードで後方へ投げられた。
このマットの硬さは何とかならないのか、それに投げ終わりのタイミングを微妙に後ろにずらして受身を取りにくくしてきやがった。
そして引きずり起こしてダブルアーム・スープレックス。
そのまま体を捻ってのしかかりフォール。
俺に余力はなかったが、足首がロープ掛かっていて助かった。
グロッギー状態の俺に待っていたのが関節地獄だ。
自分の体なのに全ての関節が相手の意のままになっている。
こりゃシューターと言うよりフッカーだな。
対戦相手の興奮状態が少し落ち着いたのか、また少し嫌な余裕を感じさせ始めた。
身動きは出来ないながらもギブアップするほどの痛みも感じない。
形勢は圧倒的に不利なままだが、少し呼吸を整えることが出来た。
そうか、この男、投げからの関節ではなく、関節でいたぶって投げでフィニッシュが勝利のパターンなんだ。