忍者
冷蔵庫からビールを取り出し、ソファに沈み込んだらテレビのチャンネルをプロレスに合わせる。
月曜日の夜は外出していてもこいつが楽しみで、なるべく早めに切り上げて帰ってくるんだ。
テレビが映ると、なんだかいつもと違って様子がおかしい。
画面では顔面血だらけのレスラーが大男にいたぶられていた。
最近あまり見なかった流血シーンがいきなり眼に飛び込んできたので、ちょっと意外に思って観ていると、もっと意外なことに驚かされた。
いたぶられているのはどう見てもケビンの野郎だ。
リングサイドには奴のビューエルが停めてある。
昨日も一緒に走ったバイク仲間のケビンに間違いない。
確かにいいガタイしてるしプロレスの好きな奴だけど、何でテレビで血だらけになってるんだ。
ケビンにお仕置きしている大男は高調して全身を赤く染め激しい攻撃を繰り返している。
これはもう駄目だ。どう見てもケビンに挽回の可能性は無いぞと思った時だった。
地味な色にペイントしたバイクがエントランスに現れると一気にリングに向かった。
リングサイドにバイクを乗りつけた男は忍者の格好をしている。
ってことは、バイクはカワサキか。
なんてことを考えていた次の瞬間、驚くにも程があるくらいに驚かされた。
どう見てもこの忍者は俺だ。
忍者頭巾で顔は覆っているがどう見ても自分なんだよ。
鎖帷子の様な物を脱ぎ捨てリングに入ると大男に向かって蹴りを放った。
プロレスごっこをしている時に良く使った飛び後ろ回し蹴りってやつだ。
身に覚えの無い光景だが、俺に間違いない忍者の胸には日の丸みたいに赤くて丸い大きな痣がある。
虫の息のケビンを背に忍者は大男を蹴りまくっている。
何なんだこの放送は。
まさか自分が試合をしているプロレス中継を見ることになるなんて、しかもこの時間は生放送のはずだ。