ゼロ戦
短いトンネルを潜り抜け少し走ると、路肩に二台のバイクが止まっていた。
車は路肩に寄り、並ぶように停止した。
逃げているときはあんなに長く感じたのが非現実的に感じられるくらいの距離だった。
状況を飲み込むために集中して話を聞いていたから時間の経過が速かったという範囲ではない。
やはり何かがおかしなことになっている。
そんなことを思いながら、車から降り少し歩くと例の穴があった。
すでに二人の男はその穴の脇で俺達を待っていた。
ふと見ると少し離れた場所にもう一台バイクが置いてある。
それに気づいた瞬間、嫌な予感がした。
競馬でも何でも予想は当たらないが、悪い予感って奴はまず外れることが無い。
荒野にポツンと置いてあるバイクは緑掛かったカーキ色とでも言う様な色で、カウルのど真ん中に赤い丸がある。
こりゃ明らかにゼロ戦がモチーフだ。
そんなもん、俺の爺さんだって行ってないくらい昔の戦争で飛んでた戦闘機だぞ。
この国じゃ未だにこれがジャパニーズ・カミカゼなのか。
しかもZX-6Rだ。悪いバイクじゃないが俺は10Rの方がいいんだよ。
バイクに眼をやる俺を見てケビンがニヤけてやがる。
この野郎、やりやがったな。
てめえのビューエルの半分の排気量しかないバイクをカタログ・スペック・マニアの俺に宛がいやがった。
しかし身に覚えが無いとはいえ散々説教喰らった直後だ。
他の三人の手前ここでまたグズるわけにもいかない。
甘んじて仕事の道具と割り切ろう。
さあ仕事だ仕事。