殺気の結界
やっぱりそうだった。草臥れたワゴン車から降りてきたのはあの男だった。
こんなことになるんじゃないかと悪い予感がしていたんだ。
赤鬼もブッカーもそちらに眼をやると緊張が走り少し背筋が伸びたように見えた。
奴の周りには殺気の結界があるかのようだ。
ゆったりと歩を進めこちらに向かってくる。
赤鬼の金剛力で動きを封じられている俺は、成す術も無く結界に呑み込まれた。
目の前に巨大な男が二人こちらを見下ろして、まさに仁王立ちしている。
阿吽と言うより、赤鬼と青鬼だが・・・
固唾を呑む間も無く青鬼に腹を蹴り上げられ、つんのめったところを担ぎ上げられた。
俺の体は2メートルを軽く越える奴の頭を見下ろす高さまで浮いたかと思うと、次の瞬間地面に向かって落下が始まった。
奴の主観で言うならば、「落とす」では無く「叩き付ける」だな。
担ぎ上げられるまでの速さに比べて地面に向かうスピードが異様に遅く感じられ、すさまじい恐怖を長々と味わうことになった。
そして背中が大地に到達した瞬間、全身を激痛が駆け回った。いつまでも。気を失うことすら出来ないくらいに。
身動きも出来ない激痛が続く中、俺は大の字で地面にひしゃげたまま辛うじて動かせる眼球で三人の様子を窺った。
時折風に乗ってブッカーの甲高い声が耳に入るが、何を言っているかまでは聞き取れない。