ブッカー
一対一でも勝てないのに相手の方に助っ人が来るなんて。
ポンコツのワゴン車から降りてきた親父は俺の前に立つと口を開いた。
「何、勝手なことしてるんだ」あからさまに怒気を含んでいた。
しかしその貫禄からは考えられない甲高い声で、びびる気持ちが和んでしまった。
それにしても俺がいつ勝手なことをしたんだろうか。
甲高い声が速射砲のように言葉を放ち続けた。
容貌と声は一致しないが、声の高さと言葉の連打は妙に一致する。
どうやらこの親父はブッカーで、俺がそれを台無しにしたことを怒っているようだ。
長い話の要点を搔い摘んでみると、俺はプロレスの試合でやられた後スキッドで荒野に埋められるが、受けたダメージを引きずりながらも復活を遂げて団体のプッシュでベルトに挑むはずだったらしい。
そんな話は初耳だし、そもそも俺はいつからこの団体の選手だったと言うんだ。
確かにタトゥーも赤鬼もプロレスラーとしてトップを張っていると言われれば100%納得だ。
白黒の夢で戦ったおっさん達とはものが違う。
しかし俺は自分の位置付けがさっぱり理解出来ていなかった。
ブッカー親父の話が終わって分かったことは、ぽっと出の新人がブック破りしたんだから、そりゃ周囲は怒るわなあ。
でも、そんな打ち合わせをした覚えが無いのだから仕方が無い。
じたばたしても仕方が無い。どうにでもしてもらおうか。
一旦事態を落ち着かせよう。
そしたらワゴンの助手席のドアが開いた。