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赤鬼
目の前に圧倒的な体格差のある相手がこちらを睨んで凄んでいる。
奴にしてみれば、逃げる獲物を追いかけてようやく捕まえるその瞬間だ。
少し高揚して顔色が赤みを帯びている。
まるで赤鬼だ。
追い詰められていることは否めないが、心底慄いているって訳でもない。
この局面をどう乗り切るか。
笑みで口元を歪めたまま間合いを詰めようとしていやがる。
タトゥーの男には遭遇した次の瞬間墓穴に投げ込まれたが、この赤鬼は少しばかり動きが緩慢なようだ。
走って逃げれば振り切れそうだ。それとも今度はビューエルで逃げるか・・・
考える時間に余裕がある。また時間の流れがおかしくなり始めているのか。
それなら苦も無く逃げ延びることが出来そうだ。
しかしいつまでも鼬ごっこしていたくないしなぁ。
と言って話し合いが出来そうな雰囲気でもないし。
すると赤鬼がスローモーションで音声を再生した時ように低い声で話し始めた。
「動くんじゃない」
状況は把握できているけれど、何でこうなったかの原因はさっぱり分からない。
「バイクは返す。傷はつけていない。帰らせてくれ。」