出口
俺はいつからこのトンネルを走っているのだろう。
視界の左隅にセンターラインがストロボのようにチラチラしながら流れる以外何の変化も無いままだ。
いや待てよ、これはセンターラインなのか?
だだっ広い荒野とタイタンのせいで体が勝手に右側の斜線を選択したけれど、もしかしたらこのトンネルは一方通行で、追い越し車線を走っているのかもしれない。
そんなことを考えながら走っていると、バックミラーに変化の兆しがあった。
小さな白い点が上下左右に激しく動いている。
この速度だと振動でバックミラーに移る物なんかほとんど判別出来たものではない。
そして少しずつそれが大きくなってきた。
まるで人魂のようにバックミラーに映る黒い背景に形を成さない光が揺れ動いている。
その光がひとつだけなのが分かるようになった頃には、かすかに音が聞き取れるようになってきた。
少しずつではあるが確実に揺れる人魂は大きくなり、やがてトンネル内にもう一台の排気音が反響するようになった。
ロングストロークの2気筒。間違いなくアメリカ製のエンジンだ。
しかしこっちだって80マイルで巡航しているのだから、背後に迫るアベレージスピードは考えにくい。
アクセルを捻り100マイルまでスピードを上げてみても、やはり少しずつ近づいてくる。
出なくは無い速度だけれど、このバイクで時速100マイルを維持するのは技術以外の何かが必要だぞ。
エンジンより先にこっちの神経が音を上げそうだ。
しかしそんな心配も長くは続かなかった。
ようやくトンネルの出口が見え始めた。外から差し込むの光がモチベーションを高めてくれた。
100マイルを維持したままトンネルから出るともう、すぐそばまで後続車は来ていた。
振り切れそうにも無いから少しスピードを落として相手の出方を見ることにした。