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二つの人影
暴力の対象を失ったアスリートは、自らの頭を掻き毟り雄叫びを上げる。
その目は血走り、完全におかしなスイッチが入ってしまっている。
この男がこうなったら生贄が何人いても足りないぞ。
取り残された三人は、今にも場外の敵に飛びかかっていきそうな男を抑えるのが精一杯だ。
リングを囲んでいる連中も、想定外の状況にどう対応して良いのか考えることすらできないでいるようだ。
ただリーダーのハリーだけが何かを分析している。
その眼球が小刻みに動き、脳内で分析結果を高速処理して次の手を打とうとしている。
観客すらもがどう対応して良いのかわからなくなるおかしな空気が流れ始めた頃、次の風が吹いた。
薄暗いエントランスのステージに二つの人影が現れた。
とてつもなく大きな影と、普通の影。
ゆっくりと現れ、一度立ち止まってこちらの様子を覗った後、こちらに向かって進み始めた。
近づいてくる。
誰だ?
どっちの味方だ?
それとも、この場を収めてくれる救世主か。