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静寂
中継のテレビのマイクロフォンは拾う音を失った。
しかし次に拾うべき音が生まれてこない。
会場にいる全ての人間が耳鳴りに襲われている。
声を出す事も、音を発する事も、忘れてしまったかのようだ。
音の無いスクリーンを追う俺達の眼に映し出されたのは、合図を送り音を静寂をもたらした男がマシンを降り、リングに上がるステップに足をかけたシーンだ。
すぐ後ろにマックスの野郎がいる。
リーダーらしき男をサポートするかのようにありきながら、マックスが後方の集団の何人かのライダーに目で合図を送ったように見えた。
何人かの男が立ち上がりマシンを降りる。
俺とケビンはお互いの面を見合わせ同時に声を上げた。
悲鳴に近いような、力のまったく入っていない、裏返った声が漏れてしまった。
マックスに続いてリングに向かう筋骨隆々の大男は、俺とケビンとデビッドとケリーだ。
見間違いようが無い。自分なのだから。
六人の男達がリングに上がる。
唖然としているレフェリーと二人の看板選手。
何が始まろうってんだ。