五月蝿いなんてもんじゃない
体も温まってきた頃だ。
序盤の探りあいからそろそろ試合が動く時間帯。
なんてことを思っていた時だった。
なんだか騒々しい音が近づいてきた。
いや間違いなくそれはバイクの排気音だった。
だんだんと大きくなるその音は、まったく統制の取れない騒音としかいえない代物だ。
どいつもこいつも景気良くアクセルを開けてはいるものの、全く音が流れない。
といって、ニュートラルで空吹かしをしているわけでもない。
低いギヤでエンジンをフル稼働させて、半クラッチのテクニックを競い合ってやがるようだ。
じわじわ大きくなってくる騒音が遂にモニターにその姿を現した。
屋根のあるところで一斉にエンジンかけるなよ。
五月蝿いなんてもんじゃない。
ぞろぞろ出てくる連中は、最後方が登場するまでにリングを取り囲み、エントランスをも埋め尽くした。
先頭のマシンがエンジンを止め、ライダーが片手で大きく合図を送った。
次々と停止したバイクが息を潜めていく。
しかし最後のマシンがその排気音を止めるまでには時間を要し、爆音が収まる頃には、その場に居合わせた全ての者が耳鳴りを共有することになった。
リング上の三人の男達のみならず、皆が呆然とし、誰一人音を発する者はいなかった。
爆音が去った後、無音の時間が訪れる。