不良×令嬢 ~お上品なお嬢様に、不良の霊が取り憑いた~
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
「淑女たるもの、常に気品を忘れてはなりません」
リステリア公爵家長女。
アリシア・フォン・リステリアは、そう教育されて育った。
歩き方。
食事作法。
話し方。
視線。
微笑み方。
全て完璧。
社交界では、
『理想の令嬢』
と呼ばれている。
そんなアリシアには秘密があった。
誰にも言えない秘密が。
『おい』
(ひぇっ!?)
『聞こえてんだろ』
(き、聞こえておりますわ……)
頭の中から声がする。
それも数日前から。
『腹減った』
(朝食をいただいたばかりですわ)
『もう減った』
(減りませんわよ)
数日前。
アリシアは庭園で転んだ。
軽く頭を打った。
目が覚めた。
声が聞こえた。
以上である。
『しかし暇だな』
(わたくしは暇ではございません)
『お茶会だろ?』
(はい)
『サボろうぜ』
(駄目ですわ!!)
『一回くらい』
(そういう問題ではありませんの!!)
頭が痛い。
本当に痛い。
声の主は、
不良の殿方だった。
『ったく』
『真面目だな、お嬢』
(当然ですわ)
『人生つまんなくね?』
(つまらなくありません)
『じゃあ楽しいこと言ってみ』
(…………)
沈黙。
『ほら』
(お、お紅茶が美味しいですわ)
『それだけ?』
(充分ですわ!)
不良は大笑いした。
アリシアは泣きそうになった。
◇
王立学園。
「ごきげんよう、アリシア様」
「ごきげんよう」
微笑む。
完璧な角度で。
『猫かぶり大変だな』
(かぶってませんわ!!)
『そうかぁ?』
(そうですわ!)
精神が削られる。
そんな時。
「アリシア」
声がした。
振り向く。
そこにいたのは、
公爵令息エドワード・フォン・グランベル。
誰もが認める優等生。
将来有望。
容姿端麗。
『イケメンじゃん』
(静かにしてくださいませ!!)
『なんで?』
(なんでもですわ!)
「最近、君は変わったね」
アリシアが固まる。
「あ?」
(返事をしてはいけませんわ!)
「そうか?」
(きゃああああああ!!)
「以前より話しやすくなった」
「おう」
(おうではありませんわ!!)
アリシアの精神力は限界に近かった。
「以前はどこか息苦しそうだった」
「へぇ」
「今の方が自然だよ」
『だとさ』
(知りませんわ!!)
アリシアは耳まで真っ赤になった。
◇
その日の放課後。
アリシアは部屋へ逃げ込んだ。
『お前さ』
(なんですの?)
『あいつ好きなの?』
心臓が止まりそうになった。
(なななななななな!?)
『好きなの?』
(違いますわ!!)
『本当か?』
(本当ですわ!!)
『ふーん』
(ふーんとは何ですの!)
『いや』
『好きそうだったから』
(うぅ……)
図星だった。
アリシア。
十六歳。
恋愛経験ゼロ。
箱入り娘。
恋愛耐性ゼロ。
『安心しろ』
不良が言った。
『俺もだ』
(……え?)
『恋愛経験ゼロ』
(……そうなんですの?)
『死んだの十六歳だし』
(あら)
『彼女できたことねぇ』
(あらあら)
『笑うな』
(笑っておりませんわ)
少しだけ。
本当に少しだけ。
心が軽くなった。
◇
数日後。
お茶会。
「アリシア様」
「どうすればアリシア様のような素敵な女性になれますの?」
後輩令嬢が尋ねる。
周囲の視線が集まる。
理想の令嬢。
完璧な令嬢。
アリシアは微笑んだ。
優雅に。
美しく。
そして。
頭の中で、
不良が呟く。
『適当に生きろ』
(却下ですわ)
『好きなもん食え』
(却下ですわ)
『好きなやつ好きになれ』
(…………)
『お?』
(…………)
『図星か?』
(うるさいですわ!!)
アリシアは咳払いした。
「そうですわね」
周囲が聞き入る。
「大切なのは」
『気合い』
(違いますわ)
『根性』
(違いますわ)
『愛嬌』
(少し黙ってくださいませ)
アリシアは微笑んだ。
「少しだけ」
「肩の力を抜くことですわ」
後輩達が瞬く。
「完璧でなくても構いません」
「好きなものを見つけて」
「少しだけ自分に素直になることですわ」
静寂。
そして。
「素敵です!」
「流石アリシア様です!」
歓声。
『へぇ』
(何ですの?)
『ちゃんと成長してんじゃん』
アリシアは少しだけ笑った。
本当に少しだけ。
「ありがとう」
『おう』
(おう、ではありませんわ)
こうして。
理想の令嬢アリシア・フォン・リステリアは、
不良の霊に振り回されながら、
少しだけ自由を覚えていく。
なお。
恋愛に関しては。
二人とも初心者だった。
『おい』
(なんですの?)
『好きって何だ?』
(わたくしに聞かないでくださいませぇぇぇぇ!!)
お読み頂き、ありがとうございます。




