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短編集

不良×令嬢 ~お上品なお嬢様に、不良の霊が取り憑いた~

作者: 涙目
掲載日:2026/08/03

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「淑女たるもの、常に気品を忘れてはなりません」


 リステリア公爵家長女。

 アリシア・フォン・リステリアは、そう教育されて育った。

 歩き方。

 食事作法。

 話し方。

 視線。

 微笑み方。

 全て完璧。

 社交界では、

『理想の令嬢』

 と呼ばれている。

 そんなアリシアには秘密があった。

 誰にも言えない秘密が。


『おい』


(ひぇっ!?)


『聞こえてんだろ』


(き、聞こえておりますわ……)


 頭の中から声がする。

 それも数日前から。


『腹減った』


(朝食をいただいたばかりですわ)


『もう減った』


(減りませんわよ)


 数日前。

 アリシアは庭園で転んだ。

 軽く頭を打った。

 目が覚めた。

 声が聞こえた。

 以上である。


『しかし暇だな』


(わたくしは暇ではございません)


『お茶会だろ?』


(はい)


『サボろうぜ』


(駄目ですわ!!)


『一回くらい』


(そういう問題ではありませんの!!)


 頭が痛い。

 本当に痛い。


 声の主は、

 不良の殿方だった。


『ったく』


『真面目だな、お嬢』


(当然ですわ)


『人生つまんなくね?』


(つまらなくありません)


『じゃあ楽しいこと言ってみ』


(…………)


 沈黙。


『ほら』


(お、お紅茶が美味しいですわ)


『それだけ?』


(充分ですわ!)


 不良は大笑いした。

 アリシアは泣きそうになった。



 王立学園。


「ごきげんよう、アリシア様」


「ごきげんよう」


 微笑む。

 完璧な角度で。


『猫かぶり大変だな』


(かぶってませんわ!!)


『そうかぁ?』


(そうですわ!)


 精神が削られる。


 そんな時。


「アリシア」


 声がした。


 振り向く。


 そこにいたのは、

 公爵令息エドワード・フォン・グランベル。


 誰もが認める優等生。

 将来有望。

 容姿端麗。


『イケメンじゃん』


(静かにしてくださいませ!!)


『なんで?』


(なんでもですわ!)


「最近、君は変わったね」


 アリシアが固まる。


「あ?」


(返事をしてはいけませんわ!)


「そうか?」


(きゃああああああ!!)


「以前より話しやすくなった」


「おう」


(おうではありませんわ!!)


 アリシアの精神力は限界に近かった。


「以前はどこか息苦しそうだった」


「へぇ」


「今の方が自然だよ」


『だとさ』


(知りませんわ!!)


 アリシアは耳まで真っ赤になった。



 その日の放課後。


 アリシアは部屋へ逃げ込んだ。


『お前さ』


(なんですの?)


『あいつ好きなの?』


 心臓が止まりそうになった。


(なななななななな!?)


『好きなの?』


(違いますわ!!)


『本当か?』


(本当ですわ!!)


『ふーん』


(ふーんとは何ですの!)


『いや』


『好きそうだったから』


(うぅ……)


 図星だった。


 アリシア。

 十六歳。

 恋愛経験ゼロ。


 箱入り娘。


 恋愛耐性ゼロ。


『安心しろ』


 不良が言った。


『俺もだ』


(……え?)


『恋愛経験ゼロ』


(……そうなんですの?)


『死んだの十六歳だし』


(あら)


『彼女できたことねぇ』


(あらあら)


『笑うな』


(笑っておりませんわ)


 少しだけ。

 本当に少しだけ。

 心が軽くなった。



 数日後。


 お茶会。


「アリシア様」


「どうすればアリシア様のような素敵な女性になれますの?」


 後輩令嬢が尋ねる。


 周囲の視線が集まる。


 理想の令嬢。

 完璧な令嬢。


 アリシアは微笑んだ。


 優雅に。


 美しく。


 そして。


 頭の中で、

 不良が呟く。


『適当に生きろ』


(却下ですわ)


『好きなもん食え』


(却下ですわ)


『好きなやつ好きになれ』


(…………)


『お?』


(…………)


『図星か?』


(うるさいですわ!!)


 アリシアは咳払いした。


「そうですわね」


 周囲が聞き入る。


「大切なのは」


『気合い』


(違いますわ)


『根性』


(違いますわ)


『愛嬌』


(少し黙ってくださいませ)


 アリシアは微笑んだ。


「少しだけ」


「肩の力を抜くことですわ」


 後輩達が瞬く。


「完璧でなくても構いません」


「好きなものを見つけて」


「少しだけ自分に素直になることですわ」


 静寂。


 そして。


「素敵です!」


「流石アリシア様です!」


 歓声。


『へぇ』


(何ですの?)


『ちゃんと成長してんじゃん』


 アリシアは少しだけ笑った。


 本当に少しだけ。


「ありがとう」


『おう』


(おう、ではありませんわ)


 こうして。


 理想の令嬢アリシア・フォン・リステリアは、

 不良の霊に振り回されながら、

 少しだけ自由を覚えていく。


 なお。


 恋愛に関しては。


 二人とも初心者だった。


『おい』


(なんですの?)


『好きって何だ?』


(わたくしに聞かないでくださいませぇぇぇぇ!!)

お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
笑える場面が多いのに、アリシアが少しずつ本当の自分を見つけていく過程が丁寧に描かれていて温かい気持ちになった。特に、不良の霊との軽快な掛け合いが面白く、最後には二人とも恋愛初心者というオチまで含めて、…
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