祠を壊しただけなのに理不尽に怒られた。
最近ね、してないなと気づいたんですよ。破滅。
ええ、その破滅です。
ほら、夏になるとラムネを飲みたくなるとか、風呂上がりにビールが欲しくなるとか、そんな感じになるじゃないですか。
それで思ったんですよ。ここ最近、破滅らしいことしてないなーって。
そうなると『よしいっちょやってみよっか! 破滅!』ってなるじゃないですか。
なるというか、なったわけなんですよ。
とはいえ、普通の破滅ってありきたりじゃないですか。
別に誰かに見せるために破滅するわけじゃないですけど、それでもお洒落にしたいってのは人情というか乙女心ってやつと言いますか。
あ、まるで化粧みたいですね。
そう考えると、化粧と破滅ってとても似てますね。
誰かのためじゃなくて自分のためにやるもので、身だしなみに気を配るあたりが。
え? お前、女だったのかって?
女だったんですよ。
いえ、自認が女なだけで実際はどうでしょうかね?
どう思います?
……よかったな。命拾いしたぞ、貴様。
というわけで女性らしい、素晴らしい破滅を考えて、思ったんですよ。
そうだ、祠を壊そうって。
どうしてかって言われても……そりゃ破滅の王道じゃないですか。
もう古いって?
ほら、私ってあれなタイプなんですよ。
あの……小説がベストセラーって言われて大きく売り出されている時には興味が薄れるけど、みんなが忘れたくらいになってから急に興味が湧いてくるタイプ。
五年前とか十年前の小説を読んで「そりゃこれなら人気ですわ」なんて感想を言うのが大好きなんですよ。
あ、ちゃんと他の本も読みますよ?
気になった本やお気に入りの作者の時は予約して紙の本を買うようにしてます。
電子書籍ってどうにも苦手なんですよ。
けれど最近、漫画は電子書籍ばかりになってきましたね。
やっぱり便利なのは間違いないですから。
それでも、紙の書籍が私は好きですね。
時代だからしょうがないとはいえ、紙の書籍がなくなりつつあるのは大変悲しいことです。
古き良きものを残すというのは、なかなかに大変なことだと思いますよ。
え? 何の話かって?
ああそうそう。祠をぶち壊す話ですよ。
もちろん、ちゃんと事前に調べましたよ。
祟りのある古い歴史があるやつじゃないと壊す意味がないですからね。
単なる罰当たりでの器物損壊なんて、破滅に相応しくないじゃないですか。
そんなの破滅じゃなくて単なる破ですよ、破。
そうしてたくさん時間をかけて、調べたんです。
祟り神が実際にいたとされる、古い歴史ある祠を。
祠というか、社というか。
それが本当にヤバい感じらしくて、なんとその村、伝統が受け継がれたままで因習村になってるんですよ。
この現代で、まさかの存続している因習村。
噂ではこっそり生け贄を捧げているとかなんとか。
触れたらヤバいって感じがもうぷんぷんじゃないですか。
だから、ここだって私、決めちゃいましたよ。
セール時期でない時に気に入った服を買うくらいの勇気を持って。
しかも、村に訪れたら、どんよりとした不吉な曇りで、カラスが大量に啼いてたんですよ。
凄くないですか?
もう、最高の破滅日和だと思いましたね。
神様も私の破滅を祝福してくれてると、ええ、大げさでなく本気でそう思いましたもの。
それでまあ、夜中にギリースーツ着用して、爆砕槌を持って、どこんと一発叩き込んだわけですよ。
ええ、どこんと一発、ご神体に。
見事に粉砕爆砕大喝采!
私の心の観客はスタンディングオベーションですとも。
ちゃんと壊せて私偉いって!
それでですね、礼儀に沿って報告に行ったわけですよ。
長老らしい人に。
そしたらなんて言われたと思います?
「えぇ……あんた祠を壊したんか?」
言葉はいいんですよ! 言葉は!
でも、「なんて罰当たりな!」ではなく「えぇ面倒くさいことしたなぁ」みたいな気だるい雰囲気だったんですよ。
もう、ムカっときちゃいましたよ。
手元の爆砕槌のカートリッジを交換するくらいにムカつきましたよ。
でもまあ私も礼儀正しい破滅願望者として、怒りを抑え、ちゃんと相手の事情を聞こうと思ったんですよ。
そしたらなんということでしょうか。
この因習村は半年前まで、祠を壊す人を歓迎して村総出で生贄にするなんて素晴らしいイベントを企画していたらしんです。
なんでも世間では祠を壊すのがブーム。
だったらうちもいっちょ村おこしのためにいっちょやってみっかって。
それで、怪しい話し方をしたり、村中にSEを響かせるスピーカーを用意したり、双子の子供にまりをつかせて意味深な歌を歌わせたりと色々やってくれていたそうなんですが……残念ながら全然人が来ないからって、やめちゃったそうなんですよ。
まあしょうがないですよ。
だってここ孤島ですから。
国境的にどこか怪しい孤島な上に、某指輪の物語とかサル・河童・豚を引き連れた旅とかレベルの険しい道のりを越えた先にある村ですから。
私くらいの気合の入った破滅願望者くらいしか来ることはありませんとも。
村の人は田舎暮らしが長くて身体が強いらしく、都会の人がこの程度の道のりで根を上げるなんて想像もしてなかったのが敗因だそうです。
まあ間の悪いタイミングだったということで、怒りも収めて落ち着きましょうと謝罪をしたわけですよ。
遅れてしまってすみませんと。
そしたら向こうも話の分かる人で、こちらこそ生贄にしてあげられずごめんなさいと謝罪してくれたわけですよ。
これですよ。
これが人の心ですよ。
礼節を弁えたら礼節が返る。
謝罪に謝罪を重ね、互いに頭を下げ、不の連鎖を断ち切り笑顔になる。
こんな寂しい時代でも、まだまだ人の心は残ってるんだなぁと感動を覚えましたとも。
だというのに……そんな私と長老の心温まる話を、妨害するやつがいたんですよ。
ええ、祠の主です。
なんだか怒り狂って邪魔をしてくるわけですよ。
せっかく人と人が誤解を乗り越え、わかり合っているというのに……。
空気の読めない神様だと私と長老は呆れ顔ですよ。
それにあまりにしつこく呪ってくるから、私は爆砕槌を、長老は「破ぁ!」を一発放ったわけですよ。
そしたらなんと消えてしまったじゃないですか。
まったく最近の祟り神は根性が足りませんね。
ええ、がっかりです。
しょうがないから私がいっちょ新しい祟り神になって、破滅願望者を満足させたるかということで、因習村に引っ越すことに決めたわけなんですよ。
ありがとうごめんなさい。
某旧ツイッターで怪文書見て作家目指すなら怪文書書けって書いてあったんです。
だから私は悪くないんです。
仮に悪かったとしても、ただのリスペクトだから大丈夫なんです。




